那覇空港‐間違ったモデルと構造改革で莫大な損失

渡久地明

2006年09月10日 22:01

那覇空港のシンポジウムが今日、かりゆしアーバンであったが、需要予測の専門の大学教授は

需要予測が難しい

ということを何度も強調していた。また、交通審議会に出たという別の教授は

いま、県民に早く造ろうという声を挙げて欲しい

といっていた。

この問題は

(1)需要予測モデルが間違っている
(2)構造改革で公共工事を減らしたため、とばっちりを受けて那覇空港の完成が5年以上遅れることになった。

ということに尽きる。

間違った需要予測手法を取り入れているということは、観光地の需要予測を手法が日本では確立されていないということに他ならない。

基本的に需要予測式がマーケットの人口と距離(移動時間)、GDPなどに影響するという政府の推計式は、考え方が間違っているので間違った答しか出てこない。この大学教授は自分が計算ができないのを棚に上げて、難しいといっているだけだ。ばかばかしい。

正しい計算は、沖縄に絞ると、航空会社と旅行社の行動・競争原理を組み込む必要がある。また、マスコミの露出度が増えると、沖縄へいってみたいという人が増えるが、これは広い意味でのプロモーションである。こういうものの方がGDPよりも沖縄には大きく影響する。

また、受入体制を充実させるとGDP伸び率を遥かに上回る成長が可能となることが分かっているのに、それも計算に入れてない。

結局、間違ったモデルで現実を表現しようとするから、間違った答しか出てこない。沖縄観光成長の法則の方が数学的にはバカみたいに簡単だが、面倒な政府モデルに比べてはるかに精度が高い。8年前に、今ごろは500万人を越えると述べたが、その通りになった。同時に2016年頃には1000万人になるとも予言してある(今年になって2018から2020年頃に修正したけど、計算方法はほぼ同じ)。

第二の「構造改革」はこれをやったおかげで、新滑走路は5年以上完成時期が遅れた。もう一人の大学教授は那覇空港の先送りをきめた会議に出ていたいわば戦犯である。今ごろ新滑走路を早く造るようにというので、ありがたがって沖縄県はパネリストとして使うのだから、ストックホルム症候群(誘拐犯人に好意を寄せる被害者心理)と同じだ。

この失われた5年間による損失は少なく見積もって(政府モデルが予想する安い損失でさえ)約2000億円に達する。わたしのモデルでは4000億円以上の損失となる。

実は損失が4000億円では済まない。空港が限界となったおかげで、沖縄旅行の価格は上がり、他の競合観光地(グアムや東南アジアのリゾート)にお客が分散し、そのまま帰ってこないと言うことが起こりうる。1ドル=130円台の頃に30万人近くいた台湾人観光客がその後の円高で激減し、いまでも戻っていないのと同じである。その場合、元に戻すために企業は余計なプロモーション費用を支出しなければならなくなり、客足が戻るかどうかの保障もない。損失はさらに膨らむ。

また「初めて沖縄に来た時期が8月の観光客のリピート率は96%だが、11月は85%に下がる」(沖縄県観光商工部「平成17年度観光統計実態調査」)ということもある(これは私も気が付かなかったが、今日のシンポジウムで質問が出た。すぐれた指摘だと思う)。いまでも夏の予約は取りにくいが、08年頃から8月の那覇空港は限界となり、行きたくても行けない人が急増する。沖縄観光の質が低下するのと同じで、リピーターになるはずのお客が毎年減っていく。

構造改革をやったおかげで02年の8次空整で決まる予定だった那覇空港の拡張は先送りされ、莫大な損失を出すことになった。

なお、8月のはじめに開かれた那覇空港の説明会は観光業界も多数参加して、「遅すぎる」と政府の姿勢を散々批判していたと聞いた(わたしは別用で取材しなかった。後日設定の説明会にでて、その様子は前に書いた)。メモがあるというので後でもらうが、何で沖縄のマスコミはこういうことを書かないのだろう。

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