那覇空港のPI説明会でのわたしの発言

渡久地明

2006年08月25日 19:54

23日に那覇空港の需要予測についてのPI(パブリック・インボルブメント=政府の事業などで計画段階から広く大衆(=パブリック)を巻き込み(=インボルブメント)意見を聞くという意味)の手法に基づいて説明会があったので、いってきた。写真を撮って自分の新聞に使う予定で、すぐに帰るつもりだったのだが。那覇空港の需要予測については、前に「トホホな内容」というエントリで、疑問を投げてあった。

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ビデオでの説明の後、質疑応答で大略次のように述べた。お相手は内閣府沖縄総合事務局開発建設部の若手、国土交通省大阪航空局の若手、県企画部の若手。主に開発建設部の担当者が応えたので、この人が実務を取り仕切ったのだと思われる。また、発言は記憶に基づくもので、厳密にこのとおりのやり取りだったわけではない。主催者側はビデオカメラを撮っていたので、だいたい下のようであったと精密に検証できると思う。(普段はあまりこういうことはやらないのだが、内容がひどすぎること、他に質問する人がいないのでわたしが最初の10数分マイクを独占した)



(1)推計モデルは最上位ケースでも利用者数は年率2.3%と非常に低いものとなっている。弱気すぎて、現実ともマッチしていない。

(答)幅を持った需要予測となっている。(少なすぎることについては)そのようなご意見はありがたい。

(2)推計モデルの最低位ケースはリスクケースとしているが、これは日本経済破綻ケースである。こんな想定はおかしすぎる。

(答)その通りです。このような低い伸びはバブル崩壊直後の成長率が前提で破綻ケースに近い。しかし、幅を持たせ、慎重にやっています。

(3)慎重にやると景気が悪くなるので、やめて欲しい。

(4)推計モデルの前提にGDPと日本人の年間の旅行回数が関係があるとしている。しかし、GDPと沖縄の観光客数は無関係である。なぜこのような計算になるのか。

(答)GDPと旅行者数に相関があるということを示したものです。

(5)GDPと日本の旅行者数に相関はあるかも知れないが、GDPと沖縄の観光客数は関係がないといっているのだが。
 たとえば97年から日本のGDPは500兆円とほぼ一定だが、沖縄の観光客数はどんどん伸びている。これをどう考えるか。

(答)90年代後半からは合わないですが、その前の20年以上はGDPは順調に伸び、旅行者数も伸びています。

(6)02年から05年までの観光客数は毎年平均4.5%増という実績だ。なぜ、今後は最大でも2.3%しか伸びないと想定したのかのか明快にすべき。また、沖縄県観光基本計画では2011年の観光客数を毎年3.7%増の650万人を目標にしているが、それにも届かないではないか。

(答なし)

(7)根拠がないなら、最上位ケースのその上に現実を踏まえて年率5%成長の需要予測を追加すべきである。また、日本経済破綻ケースはやめてしまえ。

(答)積極的なご意見ありがとうございます。

(8)レポートでは2015年を強調して最上位と最下位の需要予測のいずれでも八月は限界に達すると述べている。しかし、グラフを見ると最上位ケースでは2009年に限界になると読みとれるがその通りか。

(答)その通りです。

(9)2009年で限界であると見ていいね。

(答)はい。

(10)では、2009年に羽田が拡張され、ドーンと発着枠が増えるのだが、那覇空港ではそれを受け入れることができないというわけだね。

(答)はい(か無言。どう応えたか忘れたが否定はしなかった)。

(11)航空各社は効率の悪い500人乗りのジャンボジェットをどんどん退役させて、08年から効率のよい250人乗りのB787と交代する。このことから、利用者の増加以上に発着回数が増加するわけだが、レポートでは機材の大型化で旅客は増えるとして、小型化をを盛り込んでいないではないか。

(答)ジャンボは退役ですが、航空会社によると沖縄線などは輸送力に遜色のないB777を活用するといっているので、ジャンボ退役の影響は少ないと思われます。

(12)わかった。

(13)上位ケースの2.3%成長だと、沖縄県のGDPはいかほどまで増えるのか計算はあるか。

(答)いま、細かい数値は持ち合わせていません。

(14)それが最も大切ではないか。観光客数が増えると雇用が増えることがわかっている。沖縄の高い失業率を3%以下に下げ、県民所得を高めるためには、このくらいの観光客数が必要という需要見通しを出すべきではないか。

(答)確かのそのような考え方があります。しかし、ここではなるべく中立的な数値を算出したものです。

(15)それは中立というのでなく、単純に消極的というだけだ。もっと積極的に地域振興に関わってもらいたい。

(答)無言。

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上は、「忌憚のない積極的な意見を求める」という企画部の課長の求めに応じたものだ。しかし、これではPI報告書はパブリック・インボルブメントじゃなくて、パブリックに政府はインポである、と宣伝しているようなものだ。本当に情けない。それというのも、構造改革で(以下略)

<追記>那覇空港の総合的な調査のページに

各機関別の調査結果
http://www.pref.okinawa.jp/nahakuukou/src/qa03_kekka.html

があり、

沖縄総合事務局・平成17年・調査結果
http://www.pref.okinawa.jp/nahakuukou/pdf/kaigi_06/siryou1-4-1.pdf

として、詳細な需要予測方法と結果が述べられている。

先ほど気が付いたのだが、これほど精密に計算しているとは知らず、大変失礼しました。

とはいえ、現実と合わない需要予測となっている点は変わりなく、精密に計算しても予測が精密になるとは限らないということが改めて分かる結果となっている。

気が付いた問題点を列挙すると、

上で述べたように、低い政府のGDP予測が空港需要予測を引き下げる大きな要因になっている可能性が高いこと。したがって、小泉退陣後の新首相の経済運営方針が変われば、予測結果も大きく変化すると見られる。

また、上で述べたとおり、沖縄への観光客数とGDP成長率は全然関係がないことから、GDPを需要予測の主要なパラメーターとすることの妥当性に問題がある。

また、沖縄の魅力度という考えを導入しているが、これは以下の理由で無効であると考える。各種実態調査から「沖縄の最大の魅力は海である」ことが分かっており、個別の観光地を魅力として点数化することが妥当であるとはすぐに決められない。

むしろ、旅行社や航空会社が会社として利益を追求する際の収益源として観光施設などを追加すべきだ。モデルでは沖縄観光の推進エンジンである旅行・航空会社の役割に直接の言及がないようだが、その場合、需要喚起の重要な要素を見落としていることになる。

また、観光施設が増えることによって魅力度が増えるなら、観光施設そのものが増えることも予測する必要がある。観光施設は新しく建設されることもあるし、元からあるものに光が当たって急に観光施設になるものもある。たとえば、那覇市場はある時期から急に観光地になった。プロ野球がキャンプを張り始めると急にスポーツ合宿が広まったが、それらは予測できたのか?

結局、非常に厳密かつ慎重に需要を見極めようと努力しているが、検証が足りない。同様の手法で10年前にさかのぼって沖縄や北海道、済州島、ハワイ、ラスベガスなどが説明できるだろうか。せっかく客観性が高そうなモデルを構築したのだから、いろいろなところで条件を変えて試してみて、有効性を立証・アピールすべきだろう。2ヶ月くらいあれば、いま述べた地域くらいは調べられるはずだ。しかし、直観的にこのモデルでは最近の沖縄の好調な伸びは説明できないだろう。また、近年の北海道の失速、ハワイの90年以降の低迷を説明できないと思われる。木を見て森を見ないモデルになっていないか。(8月26日、00:55)

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