バカな増税派とアホな成長派、両方間違い

渡久地明

2008年06月04日 19:51

 6月8日投開票の県議選を国政選挙の前哨戦ととらえ、国政の党首級が沖縄入りして、県議選を盛り立てている。争点は後期高齢者医療制度である。
 
 この制度は姥捨て山そのものといっていいだろう。貧乏な農村で働けなくなった年寄りをむかしは山に捨てたという話だが、いまは政府が貧しくなったので政府が年寄りを切り捨てるというものだ。TV討論会などで口をとんがらせて自民党の大村議員などが姥捨て山制度を擁護しているが、国民は納得しない。わたしのまわりでも、自民党支持と見られる人から「福田はもういい」「自民党は負けるだろう」という批判の声が挙がっている。
 
 ところが日本はホントに医療費も出せないほど貧しいのだろうか。東南アジアの途上国や戦前の日本の話しを聞いているようだ。いまの日本で医療費が増えるとホントに国民は困るのだろうか。
 制度の導入は、日本は貧しくなった。財政が厳しいおり、医療費が増大するということは、他に回すカネがなくなることだ、だから抑制したいということである。
 
 文春6月号で衆議院の堀内光雄氏が、制度成立の経緯について述べている。

 「小泉チルドレン」などの圧倒的多数で導入を決めた。その時の国会では堀内さんを始め亀井静香、綿貫民輔、自見庄三郎さんといった「うるさ型」が郵政選挙で自民党を追い出されていたので、すんなり自民党内の意見が通った。制度は廃止すべきで、根本的には日本経済を立て直すことで国民負担は減らせると述べている(手元にないので適当に要約)。

 しかし、医療費が増えるということは、国民が支払った税金や保険料が政府支出となって世の中に出てくるということであって、カネが出回れば景気はよくなり、国民経済にとってプラスである。
 公共投資であろうと医療費であろうと、政府支出が増えることで景気刺激策となり、経済規模が拡大する。拡大した経済を国民が分け合うわけだから国民の収入も増えるということになる。

 問題は医療費が増えるなら他の政府支出を減らす、あるいは医療費を削減しなければならないと考えるところにある。つまり、日本が貧しいのではなくて、政治家のおつむの中が貧しいのだ。

 この解決に新聞やテレビでは増税と成長のどちらがよいかという問題を立てているが、これは両者が手を組んだイカサマ、やらせだろう。

 増税派は自民党前官房長官の与謝野馨氏、政調会長の谷垣禎一氏、民主党は前代表の岡田克也氏が消費税を上げるといっている。ところが、消費税を拡大すれば余計に景気は落ち込むから、間違った政策である。政治というのは国民を豊かにするのが第一の仕事であって、国民を痛めつけて(負担を増やして)、財政を立て直そうというのは本末転倒である。

 一方、成長派は竹中平蔵氏や中川秀直氏らだ。GDPを拡大して税収の自然増を図り、財源を増やすといっている。もちろん成長派の主張が正論である。しかし、どうやって成長するかについては、無駄な財政支出を減らし、規制を緩和し、企業の競争力を高めれば成長するというのである。

 これは、改革なくして成長無し、という小泉構造改革そのものである。戦後五十年余、小泉政権以前の政府の借金が約五百兆円だったのに対し、〇一年からのたった八年間の小泉構造改革で三百四十兆円も借金を増やし、いまでは八百四十兆円となった。構造改革がいかに間違った政策だったかが分かるだろう。

 結局、デフレ不況下で政府が支出を削ると猛烈なスピードで赤字が増え、増えた分を消費税で埋めるというのがバカな増税派、いや、もっと支出を削減すれば景気は回復するというのがアホな成長派である。

 両者の政策が行き着く先を現実を踏まえてイメージして欲しい、全然美しくない未来しか見えてこない。

 これに対して、日本のバブル崩壊と似たようなサブプライムローン問題に直面したアメリカは、緊急経済対策を行って政府支出を増やし、国民に減税の名目で16兆円のカネを配った。それとは別に連銀は潰れそうな金融機関に素早く3兆円の公的資金を導入し、景気の落ち込みを最小限に抑え込もうとしている。貧困大国となりさがったとはいえ、経済政策は日本とは大違いに迅速である。景気が回復すれば将来の自然増収で釣り合いはとれる。同じ考えで景気対策を行っている国はいくらでもある。

 最近届いた「香港ライナー」という香港政府のPR誌には今年の予算案の概要が出ている。各種のインフラ投資はもちろん「43億(香港)ドルを割当て、電気料金補助金として各世帯に1800ドルを提供」「困窮している人の医療費に10億ドル」「子育てサービスに3年で6000万ドル」「家庭内暴力の被害者、困窮している家庭への支援強化のため4000万ドル」「障害者に1億ドル」「月収1万ドルいかの人々を対象に強制年金基金に6000万ドルを一度限りで支給するために85億ドル」「医療制度改革に500億ドル」などなどといった支出を行う。これらによって、一時的に政府の収入は減るが2、3年後には景気が回復して税収が増えるとしている。

 日本もかつてはこれを実行していたのだ。なぜいまできないという政治家が増えたのか。本当の貧困は政治家のおつむの中にあるというのはこのことだ。

 日本では国民新党が同様の緊急経済対策を提言している。正論をはいているのは間違いないのに、あまり知られていないのが残念だ。

関連記事