『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』(ブルーバックス、長沼伸一郎著)読後感

渡久地明

2016年10月10日 12:03

 連休中に読んだ。現代経済学の大変分かりやすい解説。経済学が何を言っているのか、数学で説明しており、数学の知識のある人にとって、なーんだこういうことを言っていたのか、という理解になり、面白い。たいへん有益であり、おすすめだ。

経済数学の直観的方法 マクロ経済学編 (ブルーバックス) 新書 – 2016/9/15
長沼 伸一郎 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062579847/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_dol-xbYYVMTZR

たとえば初期の経済学で、経済学者がニュートン力学の数式を持ち込んで理論を組み立てたという話があり、それについては(わたしも)ぼんやりとそういう面があるのだろうと思っていたが、細かい解説がある。(実際、今でも観光地が観光客を誘引するメカニズムとして、グラビティー理論(地球と月が引き合うとき=引き合う力は地球と月の質量の積に比例し、距離の二乗に反比例する)というニュートン力学を流用して、観光客数がどこまで増えるか計算できると主張する人たちが結構いるのだ。)

もちろん、最新の経済学ではそこまで単純ではないが、単純でなくなったのは物理学や数学の進展によることも関係しているのだ。

中級編では力学よりも光学のフェルマーの原理から経済学の動的理論が進展してきたという説明がある。

上級編で経済学に微分方程式が導入されるのだが、その意味がしっかり説明される。私としては冗長項をわざわざ導入して、微分方程式を解くやり方は、なるほどなあと思った。

こういうやり方は理系の学生だと冗長項とはいわずに、(因数分解のワザとして)自然に身につけているものと思うが、改めて説明されるとなるほどと思う。

そこから、最新の経済学のDSGEモデルを俯瞰するやり方は読み応えがある。もっとも、ここまでくるとさすがに何のことだか分からなくなるのだが…。

なお、上級編の次に補足説明のように「第4章 経済学部で知っておくべき微分方程式の基本思想」があり、

「…(微分方程式の場合)一般的な解法はなく、むしろ全般的な話としては、当てずっぽうにそこらに目につく限りの関数を片っ端から微分してみて、与えられた関係式を満たすものがどこかにないかを探していくしかない、といった方が遙かに実情に近いのである」(246ページ)

がある。

ほかにも「第3章 上級編」162ページに似たような説明「そして一般に微分方程式というものは、その堂々巡りを逆手にとって積極的に式として捉え、その関係式をみたすcをどこかから見つけてくることで、目的の解を得る」との記述が。これもあまり意識しなかったが、「なんだ、それでいいのか」という感じ。このような数学的な慣例や背景の説明は初学者にとってありがたいはずだ。

図書館の数学の本から物理の公式を見つけてきて批判されたというアメリカのドキュメンタリー番組「超ひも理論の世界」(アメリカ2003年WGBH)で見たが、確かに答えになりそうな式をどこかから探してくるというやり方は一般的なんだ。特殊な(天才がなせる)例かと思っていた。

というのも私の観光成長論でロジスティック方程式が唐突に出てきた感じがするのではないかと懸念していたのだが(実際、ある大学教授にそう伝えたほどだ。問題ないし、他の分野で確立された数理があるなら、積極活用が吉とアドバイスを受けていた)、改めて全く問題はないわけだ。

なお、わたしは電気・電子工学の勉強をしたので電気・電子のつくる物理現象が数学で完璧に説明できることを実験を通じて身をもって知り得たが、それ以外の化学や農学、生物学、経済学も含めて、自分がやっていることと数学がどうつながるのかどこまで理解できるのだろうかと、気になる。

…私自身、ここで示された数学が全部分かるかというと、分からないところは盛大に飛ばし読みしている。しかし、数学が難しいから最初から全然説明していないという文系の経済学の解説書を読むより、本書で得られるものは多い。全体として現代の経済学が何をやってきて、これからやろうとしていることの向きが分かればよいのではないだろうか。もちろん、私自身はガキの頃から理系であり、経済学関連では前世紀の終わりごろから教科書も含めて二mくらいは読んでいるので、やっとついて行けた面もある、と蛇足。

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