その香港の経済政策はどんなものだろう。もちろん、世界の潮流に反するというものではない。
かつて資本主義の最先端を実現しているといわれ、市場原理が貫徹した社会と見られた香港だった。
日本香港協会というのがある。5月23日、沖縄にも沖縄日本香港協会ができた。そこに1988年に日本香港協会を設立した中心人物である財前宏理事長が出席してあいさつ。「資本主義、市場原理の最先端である香港を日本でも見習おうという趣旨で、日本香港協会を設立した」というようなことを述べた。昔の香港のイメージは弱者切り捨てという側面があったとわたしも記憶している。社会保障というのは希薄で、運をつかんだ人、成果を出した人が出世するというイメージだった。ついでに世界の悪知恵も集中しているというネガティブな側面もあった。
ところが、国が豊かになるに連れ、そのイメージは一新された、と思う。手元に「HONG KONG LINER」(41号、08年5月)という香港経済貿易部が造った政府機関紙がある。香港政府の08〜09年度予算の解説特集となっている。
1面トップ記事によると、曾俊華財政長官は今年の予算編成の3原則として「第一に、予算は政府の社会へのコミットメントを明確にすべきであり、第二に財政政策は持続可能なものであるべきで、第三に意志決定は現実主義的に行われなければならない」と述べている。
予算案では2008〜09年度経常収支は赤字になるが、2012〜13年度までには673億香港ドル(1香港ドル=約14円)の黒字になると見込んでいる。
財政の総額がいくらなのかこの雑誌に出ていないのはあばたもえくぼみたいなもんであるが、内容を見ると、
・インフラ投資に10の主要プロジェクト(略)
・市民生活の改善と弱者の支援として
◎電気料金補助金として各世帯に1800ドルを提供、総額は43億ドル。
◎困窮している病人の医療費負担を軽減するためにサマリア基金に10億ドルを投入。
◎困窮している高齢者に支援・配慮(家族の支援のない高齢者の居住環境改善のため2億ドル)(困窮している高齢者が、自宅として使用している不動産の補修または安全性改善工事に10億ドルの補助金)(高齢者手当制度の受給者に一人につき3000ドルを一度給付)(高齢者のデイケアセンターなどの定員拡大のために6000ドルの支出増)
◎家庭、子供への支援強化策として(保育施設整備と子育てサービス改善に3年間で4500万ドル支出)(家庭内暴力の被害者、困窮している家庭への支援のため4000万ドルの追加支援)
◎障害者支援(1億ドルを追加し、就学前訓練施設の受け入れ300人増、訓練施設450人増、公営の住み込み施設で490人の受け入れ枠増)(障害者と家族、介護者支援に3500万ドルを追加支出し、16のコミュニティーセンターを設立)
◎今後3年間で10億ドルを支出し、青少年向けに3年間の職を3000創出する。
◎約12億ドルを費やし、総合社会保障扶助受給者に1カ月分、障害者手当の受給者にも1カ月分の手当を追加支給する。
◎公共住宅に住む低所得者世帯の1カ月分の家賃を免除するため10億ドルを割り当てる。
・富を人々のもとに残し、繁栄の成果を分かち合う
◎所得税の税率を1%引き下げ15%とする。政府税収は9億6000万ドル減少する。
◎2万5000ドルを上限に07〜08年度所得税の75%を一度限りで還付する。政府負担は124億ドルである
◎13億1000万ドルで、一人親控除、既婚者控除を引き上げる。
◎課税対象世帯を3万5000ドルから4万ドルに引き上げる。これによって政府の税収は10億ドル減となる。
◎法人税を1%引き下げ16.5%にする。政府は17億3000万ドルの減収となる。
◎08〜09年度の商業登記税を免除する。政府の収入は16億ドル減となる。
◎2万5000ドルを上限に07〜08年度の不動産税を一度限り還付する。政府負担は6億8000万ドルである。
◎課税対象となる貸室1戸につき不動産利用税を免除。政府収入は112億ドルの減となる。
・未来へ向けて
◎月収(年収の誤植?)1万ドル以下の人々を対象に各人の強制年金基金に6000ドルを一度限りで支給する。政府負担は85億ドル。
◎財政余剰金から500億ドルを割当てて、
医療制度改革を推進する。
長い説明になったが、これを見る限り、香港は政治的にもゆたかで安定した社会になっているのではないかと思う。
あ、香港のその後の観光客数であるが、2003年のSARSで再び落ち込みを経験した。このとき、中国が香港への旅行を解禁し、中国人観光客が激増した。
2007年の香港への観光客数実績は
2816万人(うち日本人132万人)
となった。08年は5月まで10%成長を維持しており、3000万人を軽く超える予定である。なお、中国人の一人当たり消費金額は日本人より多いとのことである。