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2006年04月12日

量から質の論者の立脚点は?

失業がある状態では経済を成長させるのが当たり前であり、小泉構造改革は雇用を増やさず縮小均衡にしかならない、日本全体にとって大きなマイナスである、と論じる南堂久史氏のHP

「小泉の波立ち」
http://www005.upp.so-net.ne.jp/greentree/koizumi/main.htm

4月13日分に次の論説がある。「フランスの雇用制度」改革の失敗について述べた部分だ。

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 お手本の例は、高度成長期の日本経済だ。物価上昇率は5%を越えていたが、それを上回る十分な高度成長をなした。年率7%ぐらいの成長だ。差し引きして2%ぐらいの実質成長であるように見えるが、実は、この期間に、国民の生活は急激に向上した。この十数年の前には、日本は敗戦国という貧しい状況にあったが、この十数年のあとでは、先進国の豊かな生活を獲得できた。
 なぜか? そもそも、なぜ、急激な成長が可能だったか? その根源は、「生産性の向上」もあるが、肝心なのは、「失業の改善」である。ろくに職もないまま、バタ屋(死語)のようなことで生計を立てていた人々が、ちゃんとした工場に就職して、工員として仕事をできるようになった。工員の生産性はたいして向上しなくても、まともな職業に就くことができることで国全体の生産性は大幅に向上した。途上国の下級労働者のような職業に就いていた人々が、米国の自動車工場のような仕事に就くことができるようになった。……こうして、国全体が、大幅な効率向上を成し遂げた。
 その根源は、「高い成長」という政策だ。そして、ここでは、「所得倍増計画」というマクロ的な政策が取られた。つまり、生産量の伸びと所得の伸びを、同時に実施しようとした。そのことで、供給と需要が同時に成長した。これが「経済成長路線」である。これはマクロ的な政策だ。(以下略)

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同じことが沖縄の観光政策について言える。つまり、量から質へと論じている人たちは、よって立つ基盤がなんなのか自分でも分かっていないのだ。

前提は、全国平均の2倍という高失業率を解消しなければならないという沖縄固有の問題がある。失業率8%、失業者数5万人をゼロに近づけることが、観光産業いやその他のすべての産業政策の目的である。

この立場に立てば、戦後の日本がとったような高度経済成長政策がどうしても必要であることが納得されよう。

身近な観光産業の社長に聞いてみると良い。お客が増えることによって、企業は成長してきた。社員が増え、施設は拡大し、サービスが改善されてきたと誰でもいうだろう。お客が増えないことには次の手が打てないのだ。それどころか、沖縄以外の全国はお客が前年よりも減る状態が何年も続いているため、どんどん全国の旅館は閉鎖しているという現実である。そういうところで、お客が減るのは仕方がないから質を上げろ、と言えるだろうか。

観光客数を増やす(全体を増やす)というのは、実は政策としてできる唯一のものである。質を高める作業は、個別企業が独自にやるべきもので、これまで県内企業は独自に取り組んできている。そのやり方が分からないといった場合、経営コンサルタントなど指導できる組織が民間にいくらでもいる。つまり、質を高めようというスローガンは、民間にできることをまるで政策のように、勘違いして(あるいは意図的に)述べているだけに過ぎない。

マクロ政策、国や県などの政策として量の拡大があり、ミクロの個別企業は質の改善という役割分担があるのだ。

そして、国や県が勘違いして質の改善と言い始めたとき、経済は縮小均衡に向かう。全体の拡大をやる必要がない、あるいはしないことを決めたら、余った社員や公務員を減らすという風になる。

沖縄の場合は、観光客数は600万人くらいを上限にしておけば、滑走路建設などという余計な出費が要らない、道路も造る必要がない、ダムも下水道もつくらない…、という循環になる。

全体が増えないので結果として、失業は減らず、それどころかリストラで正社員が減って、パートアルバイトが増え続ける、という悪循環である。

しかし、それじゃあ、いつまで拡大すればよいのか、復帰後30年たっても何も改善しなかったじゃないか、という声が聞こえてきそうだが、復帰30年で失業率の数値や相対的な所得の格差は縮まらなかったが、所得の絶対値は着実に増えている。

また、失業の解消や所得格差の是正はだんだん見えてきた。いままではどうやって格差を是正したらよいか分からなかったのが、観光産業を500万人から1000万人に増やしたら、新たな雇用が数万人規模で増えることが分かってきたのだ。そして、現状と同じ努力がつぎ込まれることを前提に1000万人達成は2018年と計算できる。それほど遠い未来ではないのだ。現状以上の勢力をそそぎ込んで、そのスピードを速めることも可能だ。

それが分かっているから

(理論はマクロ経済、上の南堂さんほか多数がある。観光の実例はこれまでの沖縄観光の精密な分析、沖縄より20年は進んでいると見られるハワイなど世界中にある)、

1000万人を早く達成すべきだと述べているのである。600万とか700万人のままで、失業と所得格差がどのように解消されるのか、量より質と述べている学者は学者らしく精密にその経路(理論的根拠や実例)を示すべきである。

もちろん、米軍の普天間からグアムや辺野古への撤退、訓練の国内海外への分散、嘉手納以南の米軍基地の返還は、沖縄からの完全撤退の前兆であり、冒頭で述べた大前提=大目的の達成のスピードを速める。だから、名護市長を支持するのである。


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Posted by 渡久地明 at 19:47│Comments(0)デフレ脱却
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