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2006年05月02日

手も足も出せなかった沖縄県

「再編実施のための日米のロードマップ」が公表された。防衛庁のHPに英文と日本語訳がある。

内容はわざわざ「2+2」を開く前に、散々報道されていたので、新味はない。

額賀・麻生の両閣僚は何かを交渉したのではなく、セレモニーに出向いただけだった。

米から見た忠犬小泉の役割もこれで終わりだ。あとはさっさと構造改革をやめて政策転換の順番である。

この間、沖縄側はまったく日米間の協議にコミットできなかった。しかし、いくつかのチャンスはあった。思いつくことだけ述べると。

第一。96年のSACO合意の海上基地を受け入れたらどうなったかという場面だ。大田知事が海上基地を拒否。かわって沖合い埋め立て、軍民共用、使用期限15年の稲嶺知事の登場だ。この軍民共用・15年期限は軍事的にはナンセンスで、特に15年期限についてアメリカは最初から拒否だった。理由は簡単。15年で海兵隊がアメリカから出ていくという約束なんかアメリカはするわけがない。米軍がどう動くかはアメリカだけが決めるからだ。誰かに言われて米軍は動かない。

「撤去可能な海上基地」をそのまま受け入れていれば、どうなっていただろうと思う。これを逃したため、名護の軍民共用空港につられて那覇空港の沖合展開が先送りされた。軍民共用が無くなったので那覇空港の建設を急ぐというような報道が出るのはこのためである。その後の忠犬小泉の登場で、沖縄政策は聖域のない構造改革に巻き込まれて行く。全国一失業率の高い沖縄では構造改革なんかやる必要はなかったのだ。(全国でも同じだが)

第二。この15年期限について、確か国務副長官になる前だと記憶しているが、アーミテージ氏は

「2、3年に一度日米で国際情勢に関する定期的な協議を開き、そこに沖縄がオブザーバーとして参加することで妥協できる」

というようなことを述べたが、この時、沖縄はチャンスがあった。これを逃した。

第三。ラムズフェルド国防長官が来沖して稲嶺知事と会見したとき、稲嶺知事の無礼な態度にラムズフェルドはTV画面を通じてはっきり分かるほどムッとして、手みやげを持ってきていたのを出さずに席を立った。ラムズフェルドの胸の内ポケットに入っていた一枚のメモは読まれなかった。なんと書いてあったのか。これと相前後して、普天間基地の代替施設無しの返還もあり得るという報道があったが、結局、辺野古新沿岸案ということになる。

第四。新沿岸案の協議の途中で、滑走路の長さをSACO合意の1300mにとどめることができた。沖縄側が拒否を貫いたため、テーブルの上の話題にも載せてもらえなかった。そのような譲歩を日米から引き出すことすらできなかった。いまさらヘリポートに縮小してくれといっても、すでに日米で合意した案をひっくり返せるのか。ひたすら着工に反対して、物理的にも阻止して、北朝鮮が崩壊し、その後、長期にわたる監視の後、ホントに平和的に朝鮮半島問題が解決したことが分かるまで待つという手もあるが、その間、普天間を始め嘉手納以南はそのままあり続けるということにしかならないのでは。

第五。辺野古新沿岸案の引き換えに、何を得たのか。嘉手納以南の土地が帰ってくることになったが、帰った土地は地主が昔のように農業にでも使えという政策もあり得る。というか、ほとんどの土地が私有地であり、それを返したのだから、跡利用なんかに政府がわざわざカネを出す法律上の根拠は何もないのだ。畑に戻して地主に返せばそれで終わりだ。そうさせないための裏の交渉はまとまっているのか。なければこれからだということになるが、すでに地元名護市が新沿岸案を受け入れているなら、手持ちのカードは何もないということにならないか。

そうさせないためにも沖縄県は抵抗勢力として堂々と積極財政策を唱えるべきであった。縮小均衡内閣では基地の跡利用という、本来あるべき政策が実現できないのだ。たった3兆円で日本中が非難の嵐ではないか、ばかばかしい。10兆円以上投入しないと間に合わないのだ。日本全体の景気回復には30兆円(×5年以上、デフレギャップが解消するまで)必要である。

以上は今回の米軍再編の理由が、沖縄の負担軽減が目的ではあり得ないことが大前提である。いま思い起こして書いているが、そのときどきに、同じことはこれまで指摘してきた。海兵隊はアメリカの都合でグアムに撤退するのであって、代替施設無しの海兵隊撤退は確かにあり得た。その交渉を切り出さなかったのは、日本の失策、ゲームオーバー(米当局の発言=ゲームだった!)である。そのように日本政府を仕向けることができなかったのも残念である。


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Posted by 渡久地明 at 23:20│Comments(4)返還基地の跡利用
この記事へのコメント
公有水面を埋めたてる許可を与える権限は県知事にある。
かろうじてそれが手持ちのカード。
日本政府も強硬な特別立法で埋め立てたくはないので、一応カードと言える。このカードを何に使うかである。時間は迫っている。
Posted by マーベリック at 2006年05月03日 01:42
ほんとうに「かろうじて」というていどのカードですねえ。

ハートの2か3くらいの一番弱いカード。ハートの意味が通じる相手ならまだ何とかなるが、構造改革バカぞろいの、いまの日本ではどうかな。

構造改革バカにかわって、オールマイティーの持ち主が反構造改革派に代わったら、ハートの2でも生きてくるはずだが。
Posted by 渡久地明 at 2006年05月03日 11:43
東京在住のうちなんちゅです。
いつも興味深く、共感することも多く、読ませてもらっています。
沖縄に基地があることによって、北朝鮮や中国の脅威から守られ、地代という形で莫大の経済援助を受けてきたわけですから、基地撤去というスローガンには反対はしないけれど、その後の現実を見据えた交渉が必要だと思う。

海外移転に数兆円かけるくらいなら、沖縄も同額程度の再開発費用を日本政府に要求してしかるべきだったのではないか。そこら辺りのセンスは、経済界出身の知事ならあってしかるべきだと思うが、一体どうなっているのだろう。

ヘリポート移設の条件と引き換えに、空港~名護~辺野古までのリニア建設を要求するとか、ピンチをチャンスに変える契機はふんだんにあったはずなのに、悔しいではないか。

やはり、日本の国の安全保障という最重要課題を、実質一県で引き受けているのだから、それなりの対価を要求するべきだ。

すくなくとも、「沖縄が日本一、県民所得が低いのは基地の負担のせいである。沖縄が今後も負担を続けていくならば、せめて県民所得が日本の平均値レベルになるまで、沖縄の産業振興に投資してほしい」くらい、小泉さんに直談判すべきであった。

まさに、日本の安全保障の根幹を抱える沖縄の首長だからこそ、基地を人質に、沖縄の特例扱いを認めさせ、経済交渉を有利に進めるべきであったと思う。経済界出身の知事であったのに、誠に残念。

今からでも遅くない。基地建設と引き換えに、経済振興を交渉するべきだと思うのだが。
Posted by なおし at 2006年05月09日 01:00
>なおしさん

「日本の安全保障の根幹を抱える沖縄の首長」という自覚がないのではないかと疑ってしまいますね。ホントに。
Posted by 渡久地明 at 2006年05月10日 21:23
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