てぃーだブログ › 渡久地明の時事解説 › マスコミ評論 › 環境主義者VSケインズ主義者という分析

2006年11月23日

環境主義者VSケインズ主義者という分析

知事選結果について、さとうしゅういちさんが分析している。いろんな意見があるが、出色の出来と思う。紹介だけでもしておきたい。全文を念のため続きを読むに保管した。

沖縄県知事選挙~野党共闘への課題
http://www.janjan.jp/election/0611/0611215070/1.php

沖縄県知事選挙~野党共闘への課題 2006/11/22
 沖縄県知事選は、保守系の仲井真弘多候補が接戦の末、当選しました。オール野党共闘で臨んだ糸数慶子さんですがわずかに及びませんでした。得票数、得票率は以下の通りです。

 仲井真 弘多 347,303 得票数52.3%
 糸数 慶子 309,985 得票数46.7%
 屋良 朝助 6,220   得票数0.9%

 参考までに、沖縄県での過去の選挙データは以下です。

2005年比例区
自民 218,283 得票率35%
公明 54,592  得票率9%
民主 163,085 得票率26%
社民 96,975  得票率18%
共産 53,752  得票率9%
国民 30,605  得票率5%

与党計 272,875
野党計 344,417

2004年参院選
沖縄選挙区
糸数 慶子 野党 316,148
翁永 政俊 自公 220,803

比例区
自民 146,450,710
公明 79,574,604
民主 175,476,564
社民 53,666,992
共産 41,141,532
女性 9,431,984
みどりの会議 7,092,440
維新政党・新風 853

2003年衆院選
自民 200,198 得票率35.74%
公明 66,333  得票率11.84%
民主 161,872 得票率28.90%
社民 79,898  得票率14.26%
共産 51,855  得票率9.26%

2002年知事選挙
稲嶺 恵一   359,604
吉元 まさのり 148,401
あらかき 繁信 46,230

有権者の動向

 過去の結果から有権者をセグメントすると

(1)固い自民=14.6万(2004年参院選)
(2)公明=5.5万から8万(ちょっと変動が大きいが、選挙協力によるのだろう)
ゆえに、固い自公=22万余り

(3)マスコミに影響されやすい無党派=5万程度(2004年から2005年への自公の増分)
(4)保守系無党派=14万程度(国政では構造改革に嫌気。棄権したり一部3万程度は民・国にいれたりする場合が多い。しかし、知事選では自民で固まる。彼ら・彼女らはケインジアンなので自民党が予算を投入する知事選ではそちらにいく)

(5)リベラル無党派(民主ときに社民の間を行き来する)17万から20万
(6)社民6万(組合が主か)
(7)共産5万

保守層を最大限固めた仲井真さん

 仲井真さんは、2004年のような大逆風にも動じない自公の固い組織票22万票(1)+(2)を固めきった上で、(国政選挙における)野党に入れたような無党派層(4)にも少し浸透しました。

 参院選から12万票、衆院選から比べても7万上積みした。2002年知事選での稲嶺さんの票にはそれでも及びませんでした。

 2004参院選から2005衆院選にかけて増えた票は、小泉劇場やマスコミに影響されやすいような無党派層である(3)です。

 彼ら、彼女らは東京に多いが、沖縄でもそれなりには多い。若者や高齢者、インテリの一部などからなります。高齢者が自民党の古臭い部分、インテリは構造改革をいかにも旧来自民否定のリベラルなように捉えて自民党に流れているものと思われます。ただ、彼ら、彼女らは安倍晋三さんの人気がないことからほとんど投票に行っていないのではないか。もし、安倍さんに人気があるのだったら、仲井真さんは40万票に迫っていたでしょう。

 むしろ、2003年総選挙で入れた27万弱から2004年参院選での22万を引いた票、すなわち、この5万が構造改革不満票で、今回しかし仲井真さんに入れたと思います。

 また、2005年段階でも、7万程度が、保守のうち、自民党への不満から、棄権していたか、野党に入れていたような層です。これも(4)に属する。

 7万のうち、3万程度を2005年の民主、国民新党から奪い返し、4万程度を棄権していたような保守層から得たと見られます。要は、中央の自民党の構造改革に不満で、国政で民国両党に寝返った部分と、棄権していたかなりの保守層を固めたということです。

 糸数さんは社共の支持層は固め、無党派層(民主党に入れる人が総選挙では多いだろう)ではリードしました。2003年総選挙での野党票(30万)、2004年参院選のご本人の票は良く固めた。しかし、2005年比でおそらく、3万程度を民主や国民新党を支持していた元保守層の(4)から奪われました。

 今回は、自民党の利益誘導がそれなりに「有効」に沖縄県知事選挙で行われたといえます。

 以下の記事をご覧ください。
移設と振興策リンク/高市沖縄相が明言(沖縄タイムス10月22日)
【就任後、初来県した高市早苗沖縄担当相は21日、那覇市内で記者会見し、米軍普天間飛行場移設と今後の北部振興策への対応について、「基地と振興策のリンク論の議論は、全くリンクしないという表現はあたらない。移設問題は進まなくても丸ごと(振興策を)国で受けますという形にはならない」と述べ、基地移設と振興策をリンクさせて実現するという政府方針を主張した】

 これは、十分「脅し」とも取れます。

 国政では足を運ばないような保守層、あるいは、民主党に寝返っていた保守層も今回は一定程度自公推薦仲井真さんに入れたゆえんです。

 出口調査では横一線という報道でしたが3万余りの差が付いたのは、かなり組織的な動員が期日前投票で行われた(前回の倍の10万人)といえます。おそらく2人の票差から7:3で仲井真さんだったと推測します。

 また、2004年参院選では、環境主義者の糸数さんVS小泉ネオリベの代弁者自民党、という構図でしたが、今回の知事選の場合は、環境主義者の糸数さんVSケインズ主義者の仲井真さんという構図です。地方へ行けばいくほど、保守系候補でも新自由主義者には入れたくないが、ケインズ主義者には入れるという保守層は多いのです。私自身でも、正直言ってケインズ主義者ならまあいいか、という気持ちがないわけではありません。

 ただ、これは全国には絶対に当てはまらないと考えています。「お金が原因でまけたのなら全国でも同じ」という懸念をある知人からいただきました。この方は、来年の参院選で自民党が利益誘導で圧勝すると懸念されています。しかし、これは当てはまらないと保障できます。

 今の政府の方針は、基本的に地方・庶民に厳しくお金持ち・アメリカにやさしいものですから、バラまきは絶対にしません。昔の自民党のように、庶民に飴をそんなにやることはしません。(私自身は、アメリカ国債を担保に毎年10兆円規模で投資補助金・公共投資・社会保障充実を敢行すれば最終的に財政再建にもつながると考えていますが、国民新党以外は現在のところ私と経済政策でぴったりあう政党はない状況です)

 今の自民党の対庶民戦略は、公務員と民間(2005年総選挙)、女性と男性(ジェンダーバッシング)などをうまく対立させて、人々に溜飲を下げあってもらう、というやり方がメインです。したがって沖縄は極端な例外です。

 実際、同日投票の尼崎市長選挙では安倍総理と握手の写真を貼りまくった自民参院議員の子息が女性現職にダブルスコア以上で「圧敗」していますし、福岡市長選でも、自公推薦現職が野党系の新人にまさかの惨敗を喫しました。保守の基盤は崩れているのです。

 そして極論すれば、沖縄でも参院選挙だったら、相手が小泉純一郎さんか安倍総理自身でも野党が勝てると思います。新自由主義者の小泉さんはケインズ主義志向の保守層にとことん人気がないし、安倍さんはさらに悪いことに小泉さんが取れる無党派も取れないからです。

 何の問題もないようなところでは国はお金をばら撒きませんがそういうところでも疲弊していて人々の自民党への求心力はきわめて低いです。

 ただ、問題は、基地が問題となっている地域で沖縄型利益誘導を今後もピンポイントで行われると、反対の動きをそがれることになります。

政権交代の展望作れぬ野党にも根本敗因

 そして根本問題は、もし沖縄が革新知事に代わって政府にいじめられた場合でも、本土の人間がきちんと声を上げて沖縄に加勢してくれるという確証がないことだと思います。将来的には政権交代して、外交政策を変える(地位協定見直し・基地縮小)という展望も必要でしょう。

 その展望をつくりえず野党同士で軸もないままバラバラになっている本土の状況こそ、実は罪なことではないでしょうか?言い換えれば糸数さんがたとえ知事になっても、「荒木村重」にしてしまう危険性をもっていた。

 だから、本土の側での政治変革の体制が整わない状況で、沖縄で野党が知事を取らなくて良かったという面もあるとも考えてしまうのです。糸数さんを政治的に「爆死」させてしまう恐れがあった。

野党共闘はよかったが

 今回、野党共闘を批判する人もいます。
 民主党代議士の長島昭久さんは、ご自分のブログでそうした記事を書かれています。

 結果敗北だったことで「やっぱり野合はだめだ」という声が民主党の右派などから出てきてはいます。

 しかし、私は、とくに首長選挙は統一で闘わないとどうしようもないと思います。野党が分裂した2002年選挙では19.4万しかとれていません。今回の31万から差し引き12万弱は明白に「統一効果」です。

 ただ、やはり31万票は、単に政党の基礎票確保だけに留まったともいえます。プラスアルファがなかった。

 それは選挙戦術、そして戦略にやはり野党が克服すべき課題が見えていると思います。

 選挙戦中は影響を与えることを恐れて私も黙っていましたが、膿を出しきったほうが良いと考え現地で実際活動された方から取材しました(私自身は仕事の関係で、現場に出ることは控えました)。そしてあえて無党派の女性ばかりから取材しました。私自身が男性ですから、逆にそのほうがよいと考えたからです。

 50代の女性の活動家は「候補者が女性であったが、どうしても運動が男性の視点に偏っていたのではないか」という指摘をしていました。「男性ばかりの場所には“普通の女性”はいきにくかった」と正直におっしゃるのです。また彼女は「若手男性革新政党幹部から『俺のいうことを聞けば許してやる』」と言われたこともあったそうです。

 60代の女性は「大物政治家が本土からせっかく来たのに、票田の那覇市には短時間しかいさせなかった。彼(彼女)にしゃべらせればいいのに、機械的に5分とか7分できってしまう。そして彼(彼女)らを、票の少ない離島に派遣していた」と、暗に政党幹部の官僚的体質を批判されました。

 また、教育基本法「改正」には反対という元民主党員の女性の友人は、今回はご自身のページで公然と仲井真さんを支援。彼女は、革新知事になった場合に本土との関係が悪化する、また、糸数陣営の経済政策では沖縄は貧困化すると危機感を募らせていました。

 どれも実は私が感じていることとぴったりでした。野党がいまひとつ無党派を掘り起こしきれない所以であり、私自身も現在は旧来左翼からやや距離をおいて「フェミニズム保守」「立憲保守」(もちろん、対等・平等・非排除非暴力を前提に一致点で誰とでも共闘するが)に自称転換した所以です。三井マリ子さんを支援させていただきつつ、亀井静香さんや綿貫民輔さん、前原誠司的ネオコン以外の民主党も評価するスタンスです。

 野党や左派の運動において、「えらい人」が全てを仕切ろうとして一般市民が活動に参加しにくい実態があります。正規の会議のあと、男性だけで料理屋などで重要な意思決定を事実上行ってしまうことがあります。男性リーダーたちが料理屋の個室で夜中にベテランの活動家の女性を100%勝ち目がない選挙区で比例区の捨て駒的候補者として強引に擁立することを決めた。本人がいやがるのに押し付けようとした、それは人権侵害だと止めた私に「人権より革命が優先だ」「立候補せざるを得ない状況に追い込む」とまくし立てた上、「その女性を愛しているからだろう」「腐りかけの果実に手を出している」と嘲笑したという事件も経験しています。そんな経験もあるので、「セクハラ左翼」より「フェミ保守」の方がマシと思ってしまいます。彼らに石原慎太郎さんらバックラッシュ派を批判する資格はないとさえ思います。

 そして私自身、そういう「料理屋政治」を目撃するような場面に居合わせたことを深く恥じています。私は今、一回死んだつもりで三井さんの裁判や、フェミニズムの運動を支援させていただきつつ、政治的には旧来左翼と距離を置いています。それは、そうした深い反省に基づいたものです。このような「料理屋政治」は女性を排除するものでもある(女性は今の世の中では、介護(今は男性でも私自身がそうだが)や家事、育児で夜中まで料亭に付き合えない場合が多い)からで、男女共同参画に真っ向から反するからです。

 あるいは選挙で、一般市民が政策面・戦術面の意見をしてもまったく聞かないし、むしろうるさいやつとして排除する。イエスマンだけを配置する。普通の市民と共闘する努力をせずに人材不足に陥った挙句、苦し紛れに普段は対立している過激派セクトに頼るなどの例も見ています。

 私自身はそういう実態に嫌気がさして、また、自分自身の反省から、政治上、旧来左翼から距離を置いているわけです。今回も、野党側で「えらい人」で仕切りたがるという実態があり、市民と共闘するという努力が足りないので政策も今ひとつ浸透しなかったと、取材の結果から考えています。それでも31万取ったのは、候補者の人徳と悪条件でも奮闘した人々の努力のおかげでしょう。

 結論としては、共闘は絶対必要だがそれだけでは不十分であり、政策作り、選挙戦術で無党派と共闘する必要があるということです。無党派を「票田」として見るのではなく、「対等」な立場での連合相手と見る謙虚さを求めたいのです。「えらい人」(野党幹部とか左翼知識人)は「天」から地面に降りるべきです。自分のイデオロギーと多少違っても、そういう人と共同することがまた理論を鍛えることにもなるでしょう。

 以下の江田三郎さん(田中角栄さんが唯一恐れた社会党政治家。1977年党内での異常な「江田いびり」に耐えかね離党し「社会市民連合」をつくるが、直後に亡くなる)の言葉を、いまの野党の幹部の方々に贈り、本稿を結びたいと思います。30年前の言葉ですが今も光を放っています。幹部の方々はこれを実践し、政権交代へまい進することで希望を国民に与えていただきたいものです。

 【この3党(当時は社会・公明・民社。筆者注)が共同のテーブルについて作業しても、容易に使いものになる政策づくりが行われ難い。むしろミッテランが成功したように、過去の決定や建前にとらわれない無党派の頭脳を結集することで、この作業がスムーズに進むのではないか。こうして作製されたものを政党に提示して、討論してもらうことが、早道ではないかということである。

 第2に、政策立案過程に無党派の参加を求めることが、将来の政治勢力の結集にあたって、このエネルギーの参加に道をひらくことになるのではないか、ということである。われわれが既政の政治勢力だけの結集に終り、無党派のエネルギーを忘れていたのでは、国民の多数派になれないのだ】(「意識的無党派のエネルギーを結集しよう」より)

 【固定した、狭いイデオロギーにたって、革命だ、反独占だと叫んで、抵抗だけに終始していることこそ、いきいきとした歌を忘れ、誰も耳を傾けようとしない、ひからびた歌手になり下っているのではないのか】(「社会党は“歌”を忘れよ」より)

(さとうしゅういち)

同じカテゴリー(マスコミ評論)の記事
歴史の最初の草稿
歴史の最初の草稿(2023-05-06 10:28)

グラフの書き方
グラフの書き方(2021-09-05 11:00)


Posted by 渡久地明 at 23:12│Comments(0)マスコミ評論
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。