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2005年09月17日

経済学の教科書を読もう(上)

 居酒屋談義の経済学が横行していると思う。特に新聞、テレビは目があてられない。構造改革の成功で財政出動なき景気回復が実現しつつあるとか、構造改革路線のおかげで株価が上がっているなど、あり得ないことだらけだ。

 しかし、それをわたしが大きな声でいっても、単なる脳内妄想だろうと受け取られる可能性の方が高い。経済学の博士号を持っていれば、話しを聞く人もいるかも知れないが、ところがどっこい、経済の博士号も最近では全く信用できない。アメリカで経済学博士をとったという女性エコノミストが自民党の刺客として、選挙区では落選なのに比例で復活当選するケースがあったが、この人のいっていることはめちゃくちゃであることは、ネット上では良く知られている。

 そこで、まともな教科書には不況の原因は何で、どうやって回復すると書かれているのか、非常に長くなるが引用して、少し解説を加える。非常に長くなるので3回くらいに分ける。

 テキストは『経済学入門』(千種義人・慶応大学教授、同文館、初版昭和30年10月、改訂36版昭和56年10月)である。

 まずは、景気変動の性質。(下線は渡久地)
 
=========第10部景気変動論 第3章景気変動=======

(略)
3 景気変動の局面

 景気変動のリズムは、局面(phase)または様相と称せられる変動部分から成る。これら各局面は相合して一つの循環を形成する。もとより景気変動は多種多様の局面を示すものであって、まったく同一の様相が反復されるということはない。しかしそれにもかかわらず、過去の経験に照らしてみれば、だいたいにおいて典型的なものが存在している。これらの局面を明らかにしようとしたいくつかの研究がある。

 最近では景気変動の局面を第2図(略=渡久地)のように区分するのが習わしである。好況(prosperity)のつづいた後で景気後退(recession)が現われて不況(depression)に転ずる。この転換が急激におきる場合を恐慌(crisis)という。やがて回復(recovery)が始まって繁栄に入る。不況では、弱体企業は淘汰され、生産は最小限度に制限され、有価証券の価格は下落し、経済全体は極端に低い水準に落ち着く。事業活動は委縮し、金利は低下しつづける。長期投資は危険であると感ぜられ、短期資金の供給が増大するために、短期金利の低下は特に顕著となる。中央銀行の割引歩合もこれに応じて引き下げられる。事業活動の不振と相まって失業者の数が増大する。好況において異常な増産をみた資本財の生産数量はいまや最低にまで減少する。

 不況においては、輸出が激増する。国内市場が不況に陥った場合の安全弁は輸出であるといわれている。各産業は国内需要の減少を海外市場への輸出によって補おうとする。
景気変動が国際性を有するとはいえ、なおかつ世界市場にはそれぞれの特異性、たとえば国民の特性、工業国であるか原料国であるかの差などがあるから、輸出を増加させることができる。不況がしばらく存続するならば、やがて回復へ転換する可能性が発生する。不況によって強制された企業および産業の合理化、不況において進展した低金利、低物価、低賃金、不況中に圧迫されていた需要等は徐々に企業家活動を回復させる。何らかの外部的刺激たとえば発明、豊作、政治的変動等によって上昇への契機が生み出される。やがて有効需要は増大し、遊休設備は利用され、滞貨は整理され、生産は増加し、雇用は増大する。信用は拡張され、これにともなって金利、利潤、賃金、物価等はしだいに騰貴する。

 景気回復の最初の兆候は金融市場に現われる。金利の低下は企業家活動を刺激し、貨幣資本に対する需要を増大させる。さらに金利の低下は、貯蓄預金を証券投資に向けさせるであろう。何となれば恐慌の影響から時間的、心理的に遠ざかるにつれて、貯蓄を預金した者は証券投資に対する危倶の念をしだいに滅らすであろうし、また金利が一定水準以下に低下すると、貯蓄を預金の形でもつよりも証券の形でもつ方が有利になるからである。かくして投資はまず確定利付証券(公債、社債)に対して行なわれる。やがて利潤証券(株式)の価格は騰貴する。資金に対する需要が増大し、金利が騰貴するにつれて、確定利付証券の価格は下落する。投資の増加は経済の全領域に波及し、投資は投資を生んで、雇用量と生産量、したがってまた、国民所得を増大させる。投資の増加は、まず機械、鉄鋼、建築材料等の資本財の生産部門に現われ、資本財の生産を活況にする。やがて物価が騰貴し始める。しかし物価は一律に騰貴するのではない。原料品および半製品の価格は完成品の価格よりも騰貴が甚だしく、また卸売物価は小売物価よりも騰貴しやすい。賃金および利子は好況の最後になるまで一般物価の騰貴に遅れる。

 物価の騰貴および所得階層の変動の結果として消費もまた変化する。いかなる商品に対する需要が増大するかは、各商品の需要の弾力性によって支配される。すなわちバンの消費は比較的不変であるが、自動車、耐久消費財および奮移品に対する需要が増大し、これら商品の生産者は利益を得る。景気の上昇にともなって各産業の原料需要が増大し、輸入が増加する。これに対して輸出は物価騰貴のために減少するから、貿易差額は逆調となる傾向がある。好況は遅かれ早かれ終局に達し、景気後退に転ずる。まず金融が極端に困難となり、金利が昂騰する。資金の需要がますます増大するにもかかわらず、貸付資金は欠乏する。すなわち資本欠乏の現象が現われる。金利の騰貴は株式市場における投機取引をますます困難にし、証券価格を下落させる。したがって新証券の発行は極度に減少して、産業金融の主たる源泉が梗塞される。銀行が事態のなりゆきに不安を感じて貸付を回収しようとし、預金者がまた預金の不安を感じて「取付」(run)を行なうようになると、信用恐慌が発生する。

 金融市場の崩壊は、生産の減少、失業者の増大、所得の減少、企業の破産、物価の暴落等の現象を相次いで発生させる。好況は景気後退に転ずるげれども、恐慌にまで進むかどうかについては問題がある。もしシュピートホッフのように、恐慌を急激な信用崩壊と多数の支払停止であると定義するならば、恐慌は必然的ではないが、景気変動の歴史は恐慌をともなった幾多の例を示している。どの程度の企業の破産、どの程度の有価証券の暴落、どの程度の信用崩壊を恐慌というべきかは、必ずしも明瞭ではない。一般にいわれる恐慌には国民経済的なものと経済組織の一部に発生するものとがあるが、ここにいう恐慌は国民経済的規模において発生する全体的な恐慌である。経済組織の一部に起こる部分的恐慌は、それぞれ特有の原因に基づくものであって、それは景気変動とは必ずしも関係がない。
 なお恐慌には、景気変動の結果として起きるもののほかに、自然的、政治的な大変動によって起こる「外生的」な恐慌もありうる。

4 景気変動の原因

 現実の景気変動はきわめて複雑な現象であって、これを何か一つの原因によって説明することはできない。この原因を見出そうとする実証的あるいは理論的な多くの試みがなされてきたげれども、定説があるわけではない。ミッチェル(W. C. Mitchell)は景気変動の原因を、自然現象に求めるもの、心理現象に求めるものおよび制度的現象に求めるものの3種類に分けている。しかし、第1の自然的要因から景気変動を説明しようとする試みは、今日もはや重要視されていない。もとより自然的要因が何らかの形で景気変動に影響を及ぼしうることは否定できない。しかし自然的要因は経済のいわば与件であって、それは資本主義以前においても、資本主義においても存在していた。ところが景気変動は資本主義成立後において幾分規則的に発生するようになったのであるから、景気変動の原因としては、自然的要因以外の何か資本主義に特有なものに求めなければならない。自然現象のような経済外的要因から景気変動を説明しようとするものを外生的理論とよぶ。第2の心理的要因もまた景気変動に重要な関係を有することは明らかである。しかし心理的要因それ自体は、資本主義に固有なものではない。したがって結局、残るところのものは第3の制度的要因である。制度的要因こそ資本主義に特有な景気変動を説明するものである。もちろん自然的または心理的要因が景気変動をひき起こすことがありうる。しかしこれらの要因は制度的要因と結びついてのみ、景気変動を発生させるのである。制度的要因の多くは経済的要因であるから、これに基づいて景気変動を説明しようとするものを内生的理論とよぶ。(399〜402ページ)

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 上の景気変動の説明は91年までのバブルとバブルの崩壊の様子をよく説明している。また、不況の時の社会情勢をよく説明している。昭和56年の改訂版テキストだから、現在の日本の様子をみて書かれたものではない。資本主義では制度的にこのようなことが起こると説明している。

 では、制度的な要因をみてみよう。このブログでは、いまの日本は需要不足であり、このようなときには政府が赤字を出して投資すべきであると述べた来たが、不況の要因は次のように説明されており、いくつかある。それらを解決して不況から脱出するための教科書の記述は次である。


======第10部景気変動論 第4章景気変動に関する学説====

(略)
2 一般的過剰生産説

 マルサス(Thomas Robert Malthus)にいたって初めて一般的過剰生産が認められた。マルサスによれば、富の増加の原因には、資本の蓄積、土地の豊かさおよび技術の進歩の三つがある。しかし富の量の増加は必ずしもその価値(交換価値)の増加を意味しない。富の量は生産によって増加するけれども、その価値は生産物に対する有効需要に依存する。有効需要を増加させるためには、富の分配を変更しなければならない。その理由はつぎのようである。いま企業が利潤の一部を蓄積し、この資本をもって生産を拡張するとしよう。この場合、第1に、これまで不生産的労働に従事していた人々が生産的労働に移行する。しかしこれによって、全体としての労働者の消費は増減しない。第2に、資本家は節約によって資本を蓄積するのであるから、彼らの消費は減少しなければならない。第3に、生産拡張によって生産物は著しく増加する。かくして全体として見れば、消費は減少したのに生産は増加した結果となる。それ故に、生産的労働者の増加によって得られた商品の増加量は、その購買者を発見しえなくなって一般的過剰生産がおきる。この過剰は特殊の商品に関するものでなく、一般的なものである。過剰生産がおきた場合には、価値は生産費以下に低下する。したがって富を永続的に増加させていくためには、その量を増加させるのみならず、その価値を増加させなければならない。では価値の増加はいかにして可能となるか。マルサスによれば、それは生産物の消費者への分配を変更することによって可能である。価値を増加させる原因に三つある。第1に、土地財産の分割、第2は、商業の発展、第3は、不生産的労働者の増加である。土地財産の分割は富を多数の者に分割することによって、商品に対する需要を増加させる、富者によって消費されない富の部分が彼らによって消費されるようになる。第2の商業の発展もまた、需要を喚起することによって商品の価値を増大させる。第3に、地主、政治家、軍人、官公吏、自由職業者等、直接生産に従事しない人々が増加した場合には、生産に比して消費財需要が栂対的に増大する。かくして富の分配に対する干渉によって商品の価値を増大させ、商品の一般的過剰生産を防止することが可能となる。このようなマルサスの理論が後にケインズの有効需要の理論を生み出すことになるのである。(404〜405ページ)

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 ものあまりの現代日本の様子をよく説明しているが、このような不況がおこることは100年以上前(マルサス1766〜1834年)に説明されているわけだ。そして、解決策として、㈰土地財産の分割、㈪商業の発展、㈫不生産的労働者の増加を挙げている。

 ㈰は現代では累進課税となって、実現したのだが、最近の日本は累進制をフラットにしようとしていることは、景気回復に反する政策である。㈪は当たり前の話のように見える。㈫は公務員を増やせといっているわけだが、これも最近の世論とは逆の処方箋である。しかし、クソ公務員を減らせというのは、感情論であって、ホントは公務員を増やすことが景気回復に役立つ。沖縄の場合、観光客の増加は、これと全く同じ効果を生む。観光客は何かを生産するわけではないが、とにかく消費する。これによって、観光地の景気が良くなる。同様に学生を大量に集める大学や軍隊も地域経済にプラスである。沖縄米軍は消費は基地内が中心であり、必要な消費物資も米国から搬入されているから、最近は経済効果が格段に低下している。1ドル=360円のころまでは、沖縄の物価が安いので基地外で大いに消費したが、最近は基地の中から出てこなくなった。もし、米軍再編で沖縄米軍が大幅に削減され、代わって自衛隊が軍事力の空白を埋めるなら、自衛隊は県内で消費するから経済的にはプラスである。


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Posted by 渡久地明 at 22:41│Comments(0)デフレ脱却
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