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2006年03月17日

個人金融資産が増えると財政赤字が増える

日本の個人資産は1461兆円ある。日銀が日・米・英・独・仏の個人金融資産を比較した表が下である。



日本人は投資ではなく銀行や郵便局にカネを預ける傾向がある。安全だからだ。これまで、企業は投資しようとすると、自己資金と銀行からの借り入れで投資してきたわけだが、最近は企業が銀行のカネを借りなくなった。どころか、借金をどんどん返して、金利を支払わなくなった。大企業は市場から直接資金を調達できるようになった。また、不況で製品の売上は増えないので、古くなった機械を買い換えるくらいの設備投資をやっているだけだ。その程度は銀行から借りなくても、自己資金でできる。

企業が投資をせず、個人消費も横這いだと、貯蓄ばかりが増える結果、個人資産1400兆円、ということになった。もっとも、景気が悪いので最近の伸び方はあまり勢いがないが、わずかに伸びている。

このようにして貯まったカネが使われないで退蔵されると、カネは誰かが借りて、投資して儲かって、金利を支払うから増えていたのが、増えなくなる。借りる人がいないので、借りる人が出てくるまで金利はどんどん下がり、ついにはゼロになっている。民間がカネ使わないで、金利のつかないカネがどんどん退蔵されるということは、日本の富が増えないということである。そこで、政府がそのカネを借りて使い、社会資本を整備し、世の中の富を増やすことによって、国民全体を豊かにしていたのである。政府は社会資本を整備して世の中に富を増やし、増えた分の一部を税金として回収するが、その税収で借りたカネの金利を支払っていたのである。

政府が支出の伸びをへらし始めたのが、1997年ぐらいからはじまる橋本政権の行財政改革である。また、無駄な(何が無駄か分からないが)公共投資をやめろという世論の声に迎合して政権をとった小泉首相が、ホントに必要な公共投資まで本格的に削減し始めた。これが小泉構造改革である。ゼロ金利は政府が国民に金利を支払いたくないという政策であるといっても、それほど間違いではないだろう。同時に国民の富(GDP)も増えなくなったのだ。

これまでの政府は郵便貯金を元手にした財政投融資などで、カネを退蔵させるのでなく、公共投資などを行って社会の富を増やしてきた。しかし、何をトチ狂ったか、民間と同じように政府もカネを使わなくなった。それどころかGDPが増えないのに国民から増税によって金を巻き上げ、そのカネで政府の借金を返すという本末転倒の政策が実行され始めたのである。これでは、社会の富は増えず、国民は給料を減らした上に税負担が増える。

沖縄の場合、内外の投資会社がリゾートホテルを買収するなどして、どちらかというとカネが流れ込んでくる状況になっている。投資会社が政府の代わりに安いカネを集めて、有望な地域に投資しているわけだ。最近の外資の県内ホテルの買収は、買い取った資産を証券化して、一般に売り出し、最初の投資を回収するという手法であると見られる。つまり、個人資産1400兆円をターゲットにした投資である。沖縄に1兆円投資し、一口100万円の証券に分割して、年間2%くらい値上がりするとふれこみ、市場でばら売りすると、1兆4000億円くらいすぐに集まる。1400兆円の0.1%を引っぱり出せれば十分回収できる。

誰も使わなければ退蔵されるカネを活用するため、全国で公共投資を行い、数%の金利を国民に支払うという政府の仕事を、特定の地域でリゾート投資などを行い、2‐3%の金利を証券の購入者に支払うという外資が肩代わりしていると言える。有望な地域であるという判断ももちろんあって沖縄への内外資の投資ラッシュはこのように起こっていると考えられる。

しかし、投資会社が見向きもしない地域はますます干上がって行くことになる。その結果、地域間の格差が生まれてくる。そのようなあまり極端なことが起こらないように、これまでは政府がカネを使って全国に所用の投資をしていたわけだ。しかし、それを民間ができることは民間に、といってやめようというのが、小泉構造改革である。

なお、デフレ不況下、民間投資が不振で、消費も横這い、国民がせっせと貯蓄すると、結果として財政赤字はどんどん増えるという関係があり、簡単に証明される。(bewaadさんのブログに見事な解説があるので、コメント欄も含めて参考にされたい。文科系人間から見た「小泉改革の本質」 http://bewaad.com/20050903.html#p03)。


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Posted by 渡久地明 at 21:44│Comments(0)デフレ脱却
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