2007年10月11日
不況でハワイに行けなくなった日本人
構造改革は国民の間に格差をもたらした。これが旅行市場に及ぼす影響は
(1)旅行市場(人数)の縮小
(2)旅行費用の縮小
となって現れるだろう。ところが、日本の旅行市場(人数)はここ10年くらい3億数千万人と横這いであり、顕著に縮小しているわけではない。
特に沖縄観光は伸びているため、実感がわきにくい。しかし、
(1)沖縄への観光客数は客室数の増加に応じて伸びる(「沖縄観光成長の法則」(PDF))
ことが分かっており、日本の旅行市場に占める沖縄のシェアは1.5%前後と小さすぎ、価格も特にオフシーズンは十分安く大衆的であり、不況の影響は当面人数には現れないと予想する。
ただし、
(2)一人当たり消費金額は不況の度合に応じて減少傾向となる
だろう。
県内での消費額が減少するのは、需要側である観光客が1997年頃までは10万円くらい持って旅行に出かけたのに、毎年、財布に入れてくるカネが減少し、いまでは7万円前後まで下がっているからだ。それに応じて県内の大半のホテルや観光施設の一人当たり単価も減少せざるを得ないのだ。それが沖縄県の観光統計に現れている。価格が上がらないのは旅行会社の圧力というのではなく、旅行会社がこの価格では売れないと判断して価格を下げているのに過ぎない。その原因=不況こそがホントの問題であり、だから不況を回復せよと前から述べている。
県内消費について、不況との因果関係はまだ精密に証明したわけではないが、間違いではないだろう。
不況で旅行市場が縮小しているという、状況証拠はたくさん出てきている。
たとえば、次のようなニュースがトラベルジャーナルにある。
=================
JATA奥山理事、日本離れに懸念
海外旅行委で需要喚起策を集中議論へ
トラベルジャーナルオンライン07年10月10日付け
http://www.tjnet.co.jp/
JATA(日本旅行業協会)の奥山隆哉理事・事務局長は10月10日の記者会見で、日加観光会議と日本ハワイ経済協議会に出席した感想として、「各地が日本離れを起こしている。現地関係者に対してアウトバウンドの需要喚起策を明示し、実際に旅行者を増やしていかなければならない」と述べ、日本人旅行市場の地位低下に懸念を示した。10月19日に開く海外旅行委員会では、需要喚起にテーマを絞り議論する予定で、奥山理事は「必要であれば複数に渡り議論し、具体的な方策を決めたい」との考えを明らかにした。
9月5〜7日に開かれた日加観光会議では、日本の旅行業界は10年近くに渡りカナダ側が提案する観光素材を使わず、旅行者が減り続けていることへの現地観光関係者の不満が取り上げられたという。また10月5〜6日の日本ハワイ経済協議会では、日本人旅行者の減少などを理由に同協議会の解散が採択された。北米や欧米、オセアニアなどの伝統的な人気デスティネーションへの日本人旅行者も低迷を続けていることを踏まえ、「旅行者の送り出し国としての日本に見切りをつけはじめていると感じた。業界を挙げた需要喚起が必要だ」と述べた。」
(下線は渡久地)
=================
一泊以上の旅行に出かける日本人は年間3億数千万人で過去10年くらい横這いだ。これは規模が大きいので変化の様子が分かりにくい。しかし、高額商品となり、規模も1700万人前後の海外旅行は景気の動向をよく反映していると思われる。
海外旅行については橋本内閣の消費税引き上げで落ち込み、その後小渕政権で拡大しかかったが、小泉構造改革政権の登場とテロで落ち込み、SARSとイラク戦争でも打撃を受けた。
実際、日本の海外旅行者数は下のグラフのように低迷している。
(平成19年版観光白書から転載)
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/kankou-hakusyo/kankou-hakusyo_.html
96年(平成8年)までの伸びに比べ、97年以降の低迷は明白だろう。これと同じ傾向を示すのが日本のGDPのグラフだ。
(文部科学省「我が国の高等教育の将来像(中間報告)」から転載)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/04122001/013/001.htm
GDPが低迷するのとシンクロして海外旅行者数は低迷したとみて間違いはなかろう。低迷の中身はもっと分かりやすい。この間、日本人の海外旅行先は定番のハワイが凋落し、中国が著増した。
(「社会実情データ図録」より転載)
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/index.html
で、ハワイでは何が起こっているかというと、先ほど引用したように、<日本ハワイ経済協議会では、日本人旅行者の減少などを理由に同協議会の解散が採択された。>という状態だ。
ハワイは長らく日本人の海外旅行の代名詞であり、旅行社各社が最も力を入れてきたディスティネーションである。ところが、1997年頃から日本人観光客の伸び悩みが始まり、ブッシュ大統領が登場した頃から米本土からの観光客が極めて好調に伸び始めた。その結果、ここ数年ワイキキのホテルレートは上昇し、カラカウア通りに面したホテルのルームチャージが110ドルから130ドルとかそれ以上に上がっている。
ハワイのホテルは日本の旅行社に客室の値上げを通告し、旅行社側もしぶしぶ受け入れるという状態である、とこれまでの各種報道からわたしは理解している。ハワイの観光が極めて好調であるという話はハワイ大学の先生などが沖縄で講演した際にも何度か触れている。(沖縄ハワイ国際シンポジウム 産業クラスターを造れ)
つまり、ハワイは2000年頃から米本土のリゾート客が増えだし、客室が足りない状態となって価格が上がった。それに対して、日本人は不況で旅行費用を減らす方向にあり、行き先をハワイから中国などに変更している。旅行社も値上がりしてお客を集めにくくなったハワイより、中国や東南アジアのリゾートを売っている。夏場の沖縄リゾートは海外リゾートからのシフトが起こり、ズーッと好調である。夏場以外も価格をほぼ旅行社の言いなりに下げている沖縄の方がますます売りやすくなっている、ということなのだ。
以上は推理であり、状況証拠を集めただけだが、かなり正解に近いのではないか。
もし、このまま日本が間違った構造改革路線を突き進むと景気は全然回復せず、一人当たりGDPはどんどん世界に追い越される。1993年と94年に日本の一人当たりGDPは世界一だったが、図のように昨年は18位まで後退した。
(「日本経済復活の会」より転載)
http://www.tek.co.jp/p/
世界中が成長している中、日本だけがバカな構造改革を継続することで、順位はさらに下がるだろう。つまり、東南アジア諸国が経済的に日本をどんどん追い越し、物価や賃金の安い日本旅行に行きやすくなる。この事もあって、小泉政権でできた観光立国という政策は当然に実現される。
日本人の海外旅行客が頭打ちになったように、構造改革が続くかぎり、何年か後の沖縄への日本人観光客数も「家計の都合で」頭打ちになる可能性がある。その間、所得が増えた東南アジアからのリゾート客が漸増して日本人客の落ち込みをある程度カバーするだろう。
ま、1000万人くらいまでは予定通り日本人も来るだろうし、その間に構造改革路線が転換されて、世界が当たり前にやっている(日本もそれまでやってきたし、そうでなければならないという人も多い)成長路線に転換すれば、人数も増え続けるし、県内での消費額も増える。消費額が縮小傾向の600万人なのか、700万人なのか、1000万人なのか。80年代のような勢いで消費する600万人、700万人、1000万人なのかという差がこれから出てくる。前者は避けるべき不幸(=豊作貧乏)な状態が当面続くので、はやくバカな構造改革はやめるべきである。
(1)旅行市場(人数)の縮小
(2)旅行費用の縮小
となって現れるだろう。ところが、日本の旅行市場(人数)はここ10年くらい3億数千万人と横這いであり、顕著に縮小しているわけではない。
特に沖縄観光は伸びているため、実感がわきにくい。しかし、
(1)沖縄への観光客数は客室数の増加に応じて伸びる(「沖縄観光成長の法則」(PDF))
ことが分かっており、日本の旅行市場に占める沖縄のシェアは1.5%前後と小さすぎ、価格も特にオフシーズンは十分安く大衆的であり、不況の影響は当面人数には現れないと予想する。
ただし、
(2)一人当たり消費金額は不況の度合に応じて減少傾向となる
だろう。
県内での消費額が減少するのは、需要側である観光客が1997年頃までは10万円くらい持って旅行に出かけたのに、毎年、財布に入れてくるカネが減少し、いまでは7万円前後まで下がっているからだ。それに応じて県内の大半のホテルや観光施設の一人当たり単価も減少せざるを得ないのだ。それが沖縄県の観光統計に現れている。価格が上がらないのは旅行会社の圧力というのではなく、旅行会社がこの価格では売れないと判断して価格を下げているのに過ぎない。その原因=不況こそがホントの問題であり、だから不況を回復せよと前から述べている。
県内消費について、不況との因果関係はまだ精密に証明したわけではないが、間違いではないだろう。
不況で旅行市場が縮小しているという、状況証拠はたくさん出てきている。
たとえば、次のようなニュースがトラベルジャーナルにある。
=================
JATA奥山理事、日本離れに懸念
海外旅行委で需要喚起策を集中議論へ
トラベルジャーナルオンライン07年10月10日付け
http://www.tjnet.co.jp/
JATA(日本旅行業協会)の奥山隆哉理事・事務局長は10月10日の記者会見で、日加観光会議と日本ハワイ経済協議会に出席した感想として、「各地が日本離れを起こしている。現地関係者に対してアウトバウンドの需要喚起策を明示し、実際に旅行者を増やしていかなければならない」と述べ、日本人旅行市場の地位低下に懸念を示した。10月19日に開く海外旅行委員会では、需要喚起にテーマを絞り議論する予定で、奥山理事は「必要であれば複数に渡り議論し、具体的な方策を決めたい」との考えを明らかにした。
9月5〜7日に開かれた日加観光会議では、日本の旅行業界は10年近くに渡りカナダ側が提案する観光素材を使わず、旅行者が減り続けていることへの現地観光関係者の不満が取り上げられたという。また10月5〜6日の日本ハワイ経済協議会では、日本人旅行者の減少などを理由に同協議会の解散が採択された。北米や欧米、オセアニアなどの伝統的な人気デスティネーションへの日本人旅行者も低迷を続けていることを踏まえ、「旅行者の送り出し国としての日本に見切りをつけはじめていると感じた。業界を挙げた需要喚起が必要だ」と述べた。」
(下線は渡久地)
=================
一泊以上の旅行に出かける日本人は年間3億数千万人で過去10年くらい横這いだ。これは規模が大きいので変化の様子が分かりにくい。しかし、高額商品となり、規模も1700万人前後の海外旅行は景気の動向をよく反映していると思われる。
海外旅行については橋本内閣の消費税引き上げで落ち込み、その後小渕政権で拡大しかかったが、小泉構造改革政権の登場とテロで落ち込み、SARSとイラク戦争でも打撃を受けた。
実際、日本の海外旅行者数は下のグラフのように低迷している。
(平成19年版観光白書から転載)
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/kankou-hakusyo/kankou-hakusyo_.html
96年(平成8年)までの伸びに比べ、97年以降の低迷は明白だろう。これと同じ傾向を示すのが日本のGDPのグラフだ。
(文部科学省「我が国の高等教育の将来像(中間報告)」から転載)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/04122001/013/001.htm
GDPが低迷するのとシンクロして海外旅行者数は低迷したとみて間違いはなかろう。低迷の中身はもっと分かりやすい。この間、日本人の海外旅行先は定番のハワイが凋落し、中国が著増した。
(「社会実情データ図録」より転載)
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/index.html
で、ハワイでは何が起こっているかというと、先ほど引用したように、<日本ハワイ経済協議会では、日本人旅行者の減少などを理由に同協議会の解散が採択された。>という状態だ。
ハワイは長らく日本人の海外旅行の代名詞であり、旅行社各社が最も力を入れてきたディスティネーションである。ところが、1997年頃から日本人観光客の伸び悩みが始まり、ブッシュ大統領が登場した頃から米本土からの観光客が極めて好調に伸び始めた。その結果、ここ数年ワイキキのホテルレートは上昇し、カラカウア通りに面したホテルのルームチャージが110ドルから130ドルとかそれ以上に上がっている。
ハワイのホテルは日本の旅行社に客室の値上げを通告し、旅行社側もしぶしぶ受け入れるという状態である、とこれまでの各種報道からわたしは理解している。ハワイの観光が極めて好調であるという話はハワイ大学の先生などが沖縄で講演した際にも何度か触れている。(沖縄ハワイ国際シンポジウム 産業クラスターを造れ)
つまり、ハワイは2000年頃から米本土のリゾート客が増えだし、客室が足りない状態となって価格が上がった。それに対して、日本人は不況で旅行費用を減らす方向にあり、行き先をハワイから中国などに変更している。旅行社も値上がりしてお客を集めにくくなったハワイより、中国や東南アジアのリゾートを売っている。夏場の沖縄リゾートは海外リゾートからのシフトが起こり、ズーッと好調である。夏場以外も価格をほぼ旅行社の言いなりに下げている沖縄の方がますます売りやすくなっている、ということなのだ。
以上は推理であり、状況証拠を集めただけだが、かなり正解に近いのではないか。
もし、このまま日本が間違った構造改革路線を突き進むと景気は全然回復せず、一人当たりGDPはどんどん世界に追い越される。1993年と94年に日本の一人当たりGDPは世界一だったが、図のように昨年は18位まで後退した。
(「日本経済復活の会」より転載)
http://www.tek.co.jp/p/
世界中が成長している中、日本だけがバカな構造改革を継続することで、順位はさらに下がるだろう。つまり、東南アジア諸国が経済的に日本をどんどん追い越し、物価や賃金の安い日本旅行に行きやすくなる。この事もあって、小泉政権でできた観光立国という政策は当然に実現される。
日本人の海外旅行客が頭打ちになったように、構造改革が続くかぎり、何年か後の沖縄への日本人観光客数も「家計の都合で」頭打ちになる可能性がある。その間、所得が増えた東南アジアからのリゾート客が漸増して日本人客の落ち込みをある程度カバーするだろう。
ま、1000万人くらいまでは予定通り日本人も来るだろうし、その間に構造改革路線が転換されて、世界が当たり前にやっている(日本もそれまでやってきたし、そうでなければならないという人も多い)成長路線に転換すれば、人数も増え続けるし、県内での消費額も増える。消費額が縮小傾向の600万人なのか、700万人なのか、1000万人なのか。80年代のような勢いで消費する600万人、700万人、1000万人なのかという差がこれから出てくる。前者は避けるべき不幸(=豊作貧乏)な状態が当面続くので、はやくバカな構造改革はやめるべきである。
Posted by 渡久地明 at 20:47│Comments(1)
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この記事へのコメント
画像がおさまり切れていなかったので、リサイズしました。
Posted by 渡久地明 at 2007年10月12日 18:15