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2008年07月27日

財政赤字がどうしたというのか

この不況からの脱却には通貨増発による巨大減税が有効である。

ところが日本ではおかしな構造改革で経済成長させるという間違った政策を推進した結果不況は一層深まった。

政策転換すれば一挙に問題は解決するはずだが、間違いを改めることなく、改革のスピードが遅いから一層改革しなければならないというバカげた勢力が政権の主流を占めたままだ。

で、その勢力は国民にさらに構造改革が必要であるというイメージを植え付けるためにさまざまな手を使う。手っ取り早いのがメディア操作である。

その典型的実例が7月23日付沖縄の新聞二つ(全国でも)一面トップとなった

11年度3.9兆円赤字 内閣府が試算
財政黒字化困難に 景気悪化で税収減

という記事である。

両社のHPにはこの記事がないので、
FujiSankei Business i. 2008/7/23
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200807230032a.nwc
を長いけど引用すると(下線はわたし)、

 内閣府は22日の経済財政諮問会議(議長・福田康夫首相)に、景気が停滞した場合、2011年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス)が最大7・9兆円の赤字に転落するとの試算を提出した。これは、消費税で約3%分に相当する。政府が進めている歳出削減と成長戦略が期待通り進む楽観シナリオでも4兆円近い赤字になる。この結果、新たな財源を確保しないと、政府が目指す11年度までの基礎的財政収支の黒字化達成は困難としている。

 内閣府は今年度の成長率見通しを下方修正したことを踏まえ、財政再建シナリオも見直した。

 それによると、08年度の国内総生産(GDP)成長率見通しは物価変動を除く実質で当初見込みの2・0%から1・3%に、名目も2・1%から0・3%にそれぞれ減速させた。

 今年1月以降の急速な原油高、米国経済の減速などで、設備投資や個人消費が予想を大きく下回ることが確実となったためで、09年度も実質、名目とも1%台後半の成長に止まる見通しだ。

 これに伴い、税収の大幅な落ち込みが予想されることなどから、財政状況が悪化。実質成長率が09年度の1・7%をピークに1・2%まで下降線をたどり、政府が取り組んでいる歳出削減も思うように進まずに、11年度までの5年間で11・3兆円に止まった場合、基礎的財政収支の赤字は7・9兆円と試算した。

 政府が目指す14・3兆円の歳出削減が実現し、実質成長率が2・4%に上昇しても3・9兆円の赤字になる見通しで、増税なしに11年度の基礎的財政収支の黒字化達成は難しい情勢だ。

 大田弘子経済財政担当相は会議終了後の記者会見で「財政再建のためには、歳出削減と成長と増税の3つの手段の組み合わせしかない」と述べた。

 しかし、少子高齢化が進む中、社会保障費の増大でさらなる歳出カットには政府・与党の抵抗が大きい。一方、基礎的財政収支の赤字を解消するには、消費税換算で約1・7%から3・4%分の増税が不可欠。福田首相は増税議論の事実上の先送りを示唆しており、財政再建は赤信号がともっている。


県内新聞は両方とも丁寧な挿し絵も入れている(下)。

(このグラフのインチキ性については、

神州の泉の小野盛司氏の論説「基礎的財政収支の黒字化見通しに暗雲 −内閣府モデルに騙され続ける政府」
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/07/post_58c1.html

を参照。このまま行けば、最悪のパターンになることは当たり前である=政策効果は出ない。間違った政策をとり続けているからである)

財政赤字がどうしたというのか



この記事の問題は、たくさんあるが

(1)単なる試算であり、実際はどうなるか分からない将来のGDPを極端に低く見積もっていることである。このくらい低い成長は現実政治として、「何もしない」で達成できる。

(2)内閣府は成長率試算を毎年間違い続けている。この政策を行えば成長率は2〜3%行く、と2002年頃からズーッと言い続けているが、年を越すと毎回下方修正を続けている。つまり、試算は毎年間違っている。同時に政策も毎年間違った。

(3)このような根拠のない試算結果を全国の新聞に載せさせ(新聞は発表どおりの記事を書くので、国民を洗脳するのは簡単である)、危機を煽る。

(4)プライマリーバランスの達成が必要なこととして記事で紹介されているが、実際は根拠はない。また、赤字を出すことが悪いという印象を受けるが、これも根拠はない。

(5)洗脳の極致は大田弘子ポンカス大臣の「財政再建のためには、歳出削減と成長と増税の3つの手段の組み合わせしかない」という発言である。これによって、ちかぢか3つの手段を政府は導入するのだという露払いの役目を果たしている。大田弘子が間違っていることは「宍戸駿太郎vs.大田弘子」の公開討論で徹底的に追及するはずだったが、なんと討論時間は20分しか用意されなかったといい、現職大臣が議論から逃げてしまった。

(6)この記事は政府が約束を達成できない、という大方針を突くため新聞社にとっては一見政府批判と見える記事になり、新聞社としては正義を追求している格好になる。ところが、結論が「歳出削減と成長と増税」に集約されてしまい、政府がこれからやりたいことに提灯をつけることになっている。

(7)案の定、7月24日付琉球新報社説は「財政収支危機 国民犠牲の黒字策でいいか」とタイトルはよいが、内容は政府政策の推進に役立つ誤用記事であった。引用する。下線はわたし。

 大田弘子経済財政担当相は諮問会議後「(黒字化の手段は)歳出削減と成長による税収増、増税の3つしかない。3つを組み合わせていく」と述べた。
 最初に挙げた「歳出削減」は社会保障費の伸びを圧縮するなど、国民生活に打撃を与えることがほとんどだろう。
 国民が求めているのは無駄な歳出の削減である。それが十分に実行されないまま、国民に負担感を与えるばかりで、肝心の無駄を省く努力が足りないというのが国民の実感である。
 2点目の「成長による税収増」も、今さらの感がする。現時点より原油価格がまだ低く、米国経済がこれほどまでに悪化していない段階でさえも「成長による税収増」を図るための有効な手だてを講じることはできなかった。
 経済環境が厳しさを増す中、「成長による税収増」を図る力が政府に果たしてあるのだろうか。

 3点目の「増税」については総選挙を意識して、与党内で消費税増税への慎重論が強まっている。
 しかし、増税問題はそもそも選挙に勝つか負けるかという次元のものではない。財政健全化と併せて国民生活への影響にも重きを置いて考えるべきものである。


新聞というのは多様な意見を紹介するのが本来の仕事だろう。税制黒字化には大田弘子がいう3つの方法しかないという狭い了見をそのまま採用する根拠は何だろう。世界の多くの経済学者は日本に通貨増発による減税をアドバイスしている。なぜ、これほど有力な政策を日本の新聞は一行も書かないのか。

大田弘子の貧弱な妄想の3つをわざわざ取り上げてコメントしているが、3つとも浅はかだ。特に成長による税収増を図る力が政府あるのかと述べているが、ここはストレートに税収増を図る政策を取り入れるべきだと述べるべきだろう。

増税については選挙の道具にしてはいけないが、最終的には必要であると述べているように読めるのも問題である。

このようにして増税への露払いの役目を新聞が果たしたわけだ。

なお、歳出削減が必要といっているが、景気が悪いときには税収を削減すべき(国民に金を回す)であって、歳出削減(国民へ回るカネを吸い上げる=増税と同じ)はやるべきではない。ホントに無駄なカネとは何を指すのか不明である。

7月23日の地元紙朝刊一面の記事というのは(全国の地方紙でも一面で扱われたらしい)ホントにバカな記事であり、紙面構成だった。

むかし、第二時世界大戦を始めたときの政府と新聞の関係も上のようなものであっただろうと思う。大本営(注)発表の垂れ流しである。

(注)大本営発表(だいほんえいはっぴょう)とは、太平洋戦争(大東亜戦争)において、日本の大本営の陸軍部及び海軍部が行った、戦況などに関する公式発表のことである。当初はほぼ現実通りの発表を行っていたが、以下に記載する通りミッドウェー海戦の頃から損害の過少発表が目立ち始め、不適切な言い換えがまかり通るようになり、最終的には勝敗が逆転した発表すら行ったことから、現在では「内容を全く信用できない虚飾的・詐欺的な公式発表」の代名詞になっている。(ウィキペディア)



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Posted by 渡久地明 at 20:02│Comments(3)マスコミ評論
この記事へのコメント
新聞の挿し絵について、コメントをつけた。
Posted by 渡久地明渡久地明 at 2008年07月28日 19:50
このブログの内容は、政府批判でしょうか。それとも政府の発表に対して独自の見解を示せないマスメディアに対する批判でしょうか。

財政再建・景気対策のシナリオを政府が国民に対して公表するのはあたりまえです。そして発表された財政再建・景気対策のシナリオをマスメディアが報道するのもマスメディアのお仕事でしょう。問題は、政府が発表した内容を報道するだけに終始し、その内容を吟味・検討・批判できない知的レベルしか持っていないマスメディアではないでしょうか。

第二次世界大戦のころの日本と違い、今は言論統制はありません。
政府が国民を洗脳する意思があるかどうかはともかく、結果的に実際に国民を洗脳しているのはマスメディアということになりませんか。

このブログの内容は誰を批判しているのかわかりません。
Posted by SHOSHI at 2008年09月03日 07:04
ん。カテゴリはマスコミ評論だが。メディア批評であることは明瞭である。イチャモンか。
Posted by 渡久地明渡久地明 at 2008年09月03日 08:44
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