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2008年08月14日

戦後最長のいざなみ景気のウソ

戦後最長のいざなみ景気が終わろうとしている。ところがこれはとんだでたらめだ。

なんで、こんなのを好況というのか。

グラフは内閣府が発表している名目GDPの長期時系列データをグラフにしたもの。ときどき計算方法を変えているので数値は連続しないと断りがあるので、計算が違う部分の色を変えた。もっともグラフにしたらよくつながっているように見える。

戦後最長のいざなみ景気のウソ



日本経済(名目GDP)は戦後1975年ごろまで年率14.7%で成長した。

特に、かつて戦後最長といわれたいざなぎ景気(1966〜70年)は5年続き、この間、名目GDPは毎年16.36%増(=グラフから求めた)と伸びた。

1966年の名目GDPは38兆1700億円、1970年は73兆3449億円と5年でほぼ倍増した。これがホントの好況である。

このような好況は戦後、いざなぎ景気の前に
朝鮮特需(1950〜53年)、
神武景気(1955〜57年)、
岩戸景気(1958〜61年)、
オリンピック景気(1963〜64年)
と何度もあった。これが日本の高度成長期で、好況の持続というのはこういうことを言う。

池田内閣の所得倍増計画は計画期間よりはるかに早く達成された(この高度経済成長期の恩恵を沖縄が受けることがなかったことこそが一番大きな悲劇だったという見方がある)。

最近の好況はいざなぎ景気を超えて、戦後最も好況が持続したという。この好況(?)は、いざなみ景気(2002〜07年)ということになるらしい。

ところが名目GDPのグラフでいざなみ景気の部分を見ると分かるように、

2002年の名目GDPは491兆3122億円、
2007年は515兆9251億円で、6年間でたったの1.05倍しか伸びなかった。低迷である。毎年の成長率は平均してたったの1.02%だった。

これでは好況など誰にも実感できるはずがない。しかも、期間中儲かったのは大企業、特に輸出企業であり、国民の多くはリストラや非正規雇用の拡大、成果主義の導入で給料が減り、追い打ちをかけて増税、社会補償費の値上がりもあって、痛みに耐えていただけである。

痛みに耐えても何も改善しないとアメリカの経済学者が言っていたが、まさにその通りになった。

新聞記事では実質経済成長率の話題が中心だから、実質GDPのグラフも念のために次に描いた。

戦後最長のいざなみ景気のウソ



すると全体的にグラフの傾きが緩やかになっていることが分かるだろう。これはインフレ・デフレの影響である。

実質GDP成長率のグラフからいざなぎ景気の実質成長率を求めると、

年平均10.82%成長だった。名目成長率16.36%との差5.54%が期間中の平均のインフレ率だったわけだ。

別の言い方をすると、いざなぎ景気で名目経済成長率は毎年16.36%伸びたが、インフレ率が5.54%だったので、実質成長率は10.82%だった、ということになる。

今回のいざなみ景気(?)の場合、こうなる。

期間中の実質経済成長率は毎年平均2.15%成長となった。しかし、毎年1.13%のデフレだったため、名目成長率は毎年わずか1.02%にすぎなかった。

これで2007年までの6年間が戦後最長の好況だったという人がいたら、そいつはウソだというべきだ。

学校のテストでいえば、毎回100点を取っていた学生が、急に20点しかとれなくなり(病気でもしたんだろう)、それが8回続いた後、6回かけて23点くらいまで回復したというようなものだ。落第は間違いないだろう。

この間、一人当たりGDPの国際順位は2位から18位まで後退したというわけだ。

日本経済はこのような落第経済を17、8年続けてきた。国民は痛みに耐えたが、何も改善しなかったというのが、事実である。何年も好況だったという政府や学者や新聞・TVがいうウソにダマされてはいけない。



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Posted by 渡久地明 at 18:58│Comments(5)デフレ脱却
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この記事へのコメント
政府発表の統計数字には、前から不信に思ってました。
”戦後最長のいざなみ景気”とんだまやかしですね。
バブルの頃と比べてみてもしかたありませんが、最近10年間、好景気が実感できませんでした。
政府には、企業ばかりではなく、経済を支えている多くの人たちのことをを考えてもらいたいです。
Posted by ハケン太郎 at 2008年08月14日 23:58
>ハケン太郎さん

GDPのグラフが1991年から横ばいになっていますが、それ以前の傾きでGDPが伸びるべきであった、停滞したならもとの軌道に戻るような景気対策をうつべきだったという経済学者がいますが、それが正解です。

90年代半ばの日本の景気対策についてアメリカなどは「おそ過ぎ、小さすぎ」と正しく批判していました。この面に限るとアメリカ追従政治が正解だったと思います。正反対の市場原理主義を取り入れてしまったのが間違い。
Posted by 渡久地明渡久地明 at 2008年08月21日 23:23
 そうかもしれませんが、現時点ではサブプライムで世界に不景気を輸出しているアメリカとの経済の連動性は低く押さえてゆくことが重要だ。奇しくも、もはや貿易では2007年度より日米よりも日中にウエイトがシフトしている。BRICS経済の発展が今後は長期にわたって世界経済の推進軸となることは、自明であり、日本にとってのアメリカの重要性はどんどん低下してゆくことだろう。
 そういう意味で、日立金属などの株価が他よりもサブプライムにより低迷しなかったようなものに投資すべきだと思う。
Posted by メイラ at 2008年09月07日 17:40
 ちょっと対数グラフで論評するのはきつすぎるのでは?
もっとロジスティック関数なるものを勉強してみては?
いずれにしても、今から来る景気低迷は金融のせいになるだろう。
Posted by ダイヤ at 2008年09月29日 00:34
>ダイヤさん

便利だから片対数グラフを使ったのですよ。

ロジスティック式の作り方の初歩的なものは読んでいますが、
根拠のない上限を決めて、日本経済はこれ以上伸びないとする式をつくるわけには行きません。グラフのGDPが上限に達したように見えるのは、政策の間違いであると前から述べています。

「いまから来る景気低迷は金融のせい」って? 問題が分かっているなら解決すればいいんでないの? 
Posted by 渡久地明渡久地明 at 2008年09月29日 09:45
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