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2010年01月31日

観光客減少を止めるには地元の努力?

 1月29日の沖縄タイムス社説に

[観光客減少]選ばれる努力が必要だ
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-01-29_2339/

と出ている。

 昨年減少した沖縄の観光客数を回復させるために、目的地として選ばれる努力が必要といっているのだが、この論は基本的に成り立たない。問題は正しく立てたが、解答が間違いだ。

 問題の社説を適当に要約すると、

(1)現状
昨年の観光客数が6・5%の減ったが、理由は世界不況、インフルエンザなどの外部環境だった。

(2)問題
しかし問題は一過性の要因に隠れ、実は沖縄離れが進んでいるからではないのか。

(3)現状分析
楽観論はあるにせよ、今年の減少要因を詳しく分析すると(1)リストラ加速や給与カットで節約志向が強まり旅行どころではないという層が増える(2)円高で割安になる海外旅行へのシフト(3)航空会社の路線見直しや中小型機導入傾向—など、沖縄に逆風となる事象が並ぶ。

(4)解決へのヒント
数少ない旅行機会に沖縄を選んでもらうためには、観光客が評価する魅力、改善が求められる。

(5)解決策
満足度調査では、風景や海の美しさへの満足度が高い半面、自然環境の保全度、観光施設入場・文化体験、渋滞などへの不満が大きい。

強みのロケーションを生かしつつ体験型の要素を組み入れた企画として、「美ら島オキナワセンチュリーラン」「沖縄国際映画祭」「沖縄国際アジア音楽祭」といった新たな魅力をつくる“仕掛け”がより重要になってくる。


 となっている。
 
 立てた問題は、観光客が減少すると県経済にマイナスの影響を与える、これを避けるにはどうするということで、まともだ。
 
 さらに現状分析も国民の所得が減少したからというのはたぶん正しい。観光白書などでも旅行へ行かなくなった理由のトップは所得が減ったからという理由で、次いで教育費がかかるようになった世代が旅行を減らしている。
 
 このような問題にたいするまともな答は、国民の所得を増やしたり、教育費を支援したりすることであるはずだ。
 
 しかし、社説では問題をせっかくまともに立てたのに、国民の所得を増やすという答を当たり前のようにはぐらかして、沖縄側の努力がもっと必要だとしている。説得力ゼロだ。試験問題なら0点。
 
 では、間違いであるにせよ、地元の努力がもっと必要という社説の意味はなんだろう。需要はすくないが、供給を工夫すればお客が増えるということを力説しているわけだ。
 
 どこかで見たことがある理屈ではないか? そう、小泉構造改革論とうり二つだ。デフレ不況の際に供給を強化しても問題は何も解決しないということは経験済みだ。逆に、非正規労働者が増えて世の中に不幸を広めた。
 
 沖縄に限ればこの10年で空港ビルが新しくなり、モノレールができ、道路建設も進んで快適な環境が整ってきた。新たなリゾート施設が毎年増加し、サービスは格段に向上している。おかげで、日本全体の観光地が沈む中で、沖縄は02年以降08年までかなり長い期間成長を続けた。
 
 つまり、供給側はかなり頑張ってきた。まだスキマはあるかも知れないが、それを埋めれば前年のマイナスをカバーできるかというと、そうでもない。所得が減って沖縄へ行く人が減っている、今年もそれが継続する。その場合、新しいことをやっても、観光客は減少するのだから、やった分、余計な経費がかかっただけという最悪の事態もあり得る。

 新聞なら、やはり根元的に景気を回復させるための論陣を張るべきだろう。わたしはこのようなお粗末な論説がこの10数年の日本の低迷を生み出し、国民を貧乏にした一翼を担ったと考える。



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Posted by 渡久地明 at 18:54│Comments(0)マスコミ評論
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