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2010年03月01日

沖縄観光の成り立ち

沖縄観光の成り立ち
渡久地明

(2010年2月18、22日、太平洋の島々と南米の観光行政担当者らのJICE(日本国際協力センター)の研修で)

沖縄観光の成り立ち


 皆さんこんにちは。わたしは渡久地明です。いまお配りした「観光とけいざい」という沖縄の観光専門の新聞をつくっています。今年で三十七年になります。わたしの親父が創刊した新聞でわたし自身は大学の専門は電気で、卒業してすぐに沖縄観光速報社に入り、社歴は二十七年になります。いまは父から会社を引き継いでわたしが新聞を発行しています。

 この新聞をつくっていて記憶に残る出来事は、一九九八年に、沖縄の観光客数が二〇一六年には一千万人に到達すると予想して、それを前倒しで達成すべきだと提言してきたことです。それを二〇〇六年の知事選挙でいまの仲井眞知事が選挙公約にして当選し、いま、二〇一六年の観光客一千万人が沖縄県の目標になっていることです。

沖縄観光の成り立ち


 図1は沖縄観光客数がどのように伸びてきたかをグラフに示したものですが、最初にわたしがこのグラフを描いたは一九八三年でした。しかし、その時は沖縄の観光客数の増減には何の規則性も発見できませんでした。

 ところが、それから二十年経った一九九五年頃にもう一度グラフを描いてみると、図1のようなきれいな直線に沿って沖縄観光が成長していることに気が付きました。これはなぜだろうと思って、他の観光地のグラフを描いてみたところ、図2に示すように世界の有力な観光地も同じように成長してきたことが分かりました。

沖縄観光の成り立ち


 まず、世界の到着観光客数は一九七〇年以来毎年平均四・五%成長で伸びており、UNWTOは二〇二〇年までこれに近い伸びが継続すると予想しています。図2の二番目のグラフはラスベガスの観光客数で、過去三十年にわたって毎年平均五・三%%増を継続しています。ハワイは一九七五年から九一年まで五・四%成長。沖縄は一九七七年から毎年四・五%成長。年間百万人前後で規模は小さくなりますが、モルジブは過去十六年にわたって九・一%成長を継続しました。

 なぜ、このようなことがおこるのでしょうか。その理由を沖縄県を実例にこれから探っていきたいと思います。

 沖縄観光がどのように成長してきたかを振り返ってみましょう。

 図3が一九七二年から昨年までの観光客数の変動です。

沖縄観光の成り立ち


 沖縄の観光客数は復帰の年の一九七二年に四十四万人でした。日本政府は沖縄が日本に返還されたのを祝って一九七五年に沖縄海洋博覧会を開催することにしました。すると、沖縄の土地を持っている人たちが、一斉にホテルを建設し始めました。海洋博で沢山の観光客が来ればホテルが儲かると思ったからです。実際にその通りになり、一九七五年の観光客数は百八十万人前後に急拡大しました。

 しかし、翌年は半減し、沢山のホテルが倒産しました。もちろん、この危機を乗り切ることが大切で、県内のホテル関係者は危機突破の総決起大会を開き、対応策を協議しました。この大会には政府も航空会社も旅行会社も参加しており、本格的な沖縄キャンペーンを展開する契機となりました。海洋博で百八十万人を受け入れる能力があることが証明されたわけですから、どんどんキャンペーンしても百八十万人までは必ず伸びることが分かっているわけです。それが成功して一九八〇年頃には百九十万人まで急成長したわけです。しかし、その後、数年間、観光客数は停滞しました。誰かこの停滞の理由が分かる人はいますか。 不況の影響もあると思いますが、基本的には客室が足りなくなっていたのです。

 一九八二年の沖縄の観光業界の大きな話題は、政府と沖縄県が一九九一年までの十年計画でに観光客数を三百万人に拡大すると宣言したことでした。

 図3のように当時、観光客数は百九十万人前後でしたが、伸び悩みの時期に入っていました。業界は誰がどうやって三百万人を達成できるのだ、という冷ややかな見方が多かったと思います。しかし、一九八四年にはANAが沖縄本島西海岸に万座ビーチホテルを開業します。このホテルは海洋博後初めての海辺のリゾートホテルで、その成功を見て直後に数軒のリゾートホテルが開業しました。

 観光客を受け入れるホテルができたところで、八〇年代後半の急速な成長が達成でき、沖縄県の目標一九九一年の三百万人がほんとうに実現したわけです。

 このことは適切な計画に基づいて客室数をコントロールすれば安定した成長が実現できるというヒントになると思います。

 九〇年代最初にもホテル不足になって観光客は伸び悩み、湾岸戦争、円高による海外旅行ブームで沖縄観光は再び低迷します。しかし、九三年頃にはホテルが続々開業し、三〜四年の低迷後、円高が解消されると再び急回復します。

 二〇〇〇年と〇一年の低迷は米同時テロの影響を受けましたが、再び客室が足りなくなった時期で、〇三年にモノレールが開通するのに合わせてモノレール沿線沿いにホテル建設ラッシュとなり、〇八年までの成長を支えたのでした。現在は一九七二年以来十年ごとの沖縄振興計画の四回目の期間であり、期間終了時の二〇一一年の観光客数を七百二十万人にすることになっています。

 つまり、沖縄観光は低迷と成長をくり返しましたが、基本的に観光客が増えると客室が増え、増えた客室を埋めるように今度は観光客が増えたということをくり返したわけです。これと同じようなことが世界でおきていると予想されます。

 われわれは観光客一千万人を目標にしましたが、その目的は日本で一番の貧乏県で失業率の高い状態を観光産業でいくらかでも解消することにあります。そこでもし、失業率がゼロになったなら、観光客一千万人を無理して達成する必要はありません。観光客の増加で失業はゼロになるでしょうか。それを一足先に達成した実例が世界にはあって、それはハワイです(後で気が付きましたが、身近な沖縄県内でも竹富町などで失業率がゼロに近くなっています)。

 図2のグラフを改めてみてみると、ハワイの観光客数は一九九二年以来増えていません。横這いが続いています。

 この理由はいままでの説明から推定すると、客室数があまり増えていないと予想できます。実際に数値を見るとホテル客室数は増えていません。では、ハワイの観光客数は頭打ちで、ハワイは困っているのでしょうか。それを確かめるために昨年わたしはチャイナエアラインとハワイ観光局の協力を得てハワイを取材してきました。すると、〇七年のハワイの失業率は二・五%前後と完全雇用の状態で、全米最低水準、ホテル稼働率は八五%前後と全米のトップクラスの成績となっていました。ホテルが増えない理由はワイキキの開発が一九九〇年頃にはほぼ完了していて、これ以上のホテル建設に許可が出ないからでした。〇八年五月のワイキキは建設中のホテルが一軒ありましたが、これ以上の許可は出ないだろうとのことでした。

 一九八〇年代半ばにハワイを取材した際に、ハワイ観光局の担当者は「ハワイは今世紀中に観光客一千万人を達成する。しかし、皆さん安心して下さい。一千万人が訪れるようになってもハワイは沈没しませんから」といったものです。

 ところが、〇七年にハワイの観光客は七百五十万人で受入の上限に達し、失業も解消したことから八〇年代の目標一千万人はもはや全く忘れられていました。

 沖縄も、もし一千万人を達成する前に完全雇用が実現したなら一千万人を目指す必要はなくなるというわけです。

 ただし、ハワイの観光客数はアメリカの住宅バブルの崩壊、リーマンショックに始まる世界同時不況で〇八年に前年比一〇%を超えるマイナス、二社あった地元の航空会社のうち一つが倒産しました。〇九年もさらに五%程度の前年割れとなりました。まだ調べていませんがおそらく失業率も高まっていると思います。

 沖縄は〇八年に観光客六百万人を達成して過去最高を記録しましたが、伸び率は低いものになりました。〇九年は不況が深刻化して一〇%前後のマイナスとなりました。急速に国民の消費マインドが冷え込み、旅行する人が減ったんです。おかげで日本を代表する航空会社JALが破綻することとなりました。観光客の減少で県内観光企業は残業時間が減り、従業員の所得は減少したり、リストラで失業したものもいます。いまは強力な景気回復策が必要ですが、沖縄県では手も足も出ません。日本の不況を解決する力を沖縄県は持っていないからです。それでも懸命に観光客の拡大に向けて、工夫を凝らしています。国内のキャンペーンの継続はもちろん、不況から早期に脱しつつある中国や香港、韓国など海外からの観光客を増やそうとしています。

 以上のように観光産業は地域の失業を解消したり、農水産物の消費を拡大したり、GDPを増やす役割を果たします。皆さんのお国はいずれも日本人から見たらぜひとも行ってみたい国々ばかりです。沖縄の経験をもとに計画的に観光産業の拡大を図ることができると思います。

 そこで、皆さんは各国の政府を代表して沖縄に研修に来ておられるので一つ頼みがあります。是非、お国に帰ってから、日本政府に早く景気を回復させるように、外圧をかけていただきたい。日本政府が本気で景気回復に取り組めば短期間で不況から脱却し、国民の旅行も増え、沖縄の観光客も増加に転じます。皆さんのお国にも日本人が再び出かけるようになり、投資も期待できます。日本の景気が急回復すると世界が恩恵を受けます。是非、日本政府に圧力をかけて欲しいと思います。

 以上でわたしの予定した話しを終わりますが、どんな質問にも答えますので、何でも聞いて下さい。(質疑応答は省略)

(講演内容は2月18日の太平洋の島々の研修で述べたものに加筆。それを南米の研修でそのまま使おうとしたら、途中で沢山の質問が入って記事通りにはなりませんでした。島の人たちと南米の人たちの国民性の違いを改めて認識しました)



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Posted by 渡久地明 at 18:11│Comments(0)沖縄観光の近況
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