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2009年06月24日

ヒトラーの経済政策

 所得税の累進性を高め最高税率を高めることで、政府税収が増え、必要な支出を行うことで景気は回復すると述べた。詳しくは吉越勝之税理士が日本とアメリカの実例を示して論述している。
 
 これについてたまたま昨日、書店で見つけた『ヒトラーの経済政策‐世界恐慌からの奇跡的な復興』(武田知弘著、祥伝社新書、09年4月5日初版第一刷、780円+税)にドイツの例が極めて詳細に出ている。面白いので一気に読んだ、というより一気に読ませる筆力である。
 
 第一次大戦の賠償金を払うために大量のマルクを刷って、ハイパーインフレに見舞われた事実は歴史教科書などに出ていて、有名な話だと思うが、それからどうやって立ち直ったのかあまり知られていない。
 
 むかし読んだ小室直紀の『国民のための経済原論』などのなかにドイツは天才財政家シャハト博士の経済政策でハイパーインフレを退治、逆にアウトバーンといった公共工事で国民を富ませ、どんどん消費するようになることで、ドイツ経済を建て直し、ヨーロッパ随一の工業大国に発展したというような記述があった(手元にないのでうろ覚え。この本初版は1993年なのね)。

 理論的には国民の消費を拡大すれば、景気は回復、拡大するのは分かっているが、どうやったのだろうと思っていたのだが、上記『ヒトラーの経済政策』に具体的に、詳しく出ている。同書の前書き部分を引く。

 ヒトラーが政権を取ったとき、ドイツは疲弊しつくしていた。
 第一次世界大戦で国力を使い果たした上に、多額の賠償金を課せられた。ようやく復興しようとした矢先に世界大恐慌に襲われたドイツという国はボロボロの状態になっていたのだ。
 しかし、ヒトラーが政権を取るや否や、経済は見る間に回復し、2年後には先進国のどこよりも早く失業問題を解消していたのである。
 ヒトラーの経済政策は失業解消だけにとどまらない。
 ナチス・ドイツでは、労働者の環境が整えられ、医療、厚生、娯楽などは、当時の先進国の水準をはるかに超えていた。
 国民には定期的にがん検診が行なわれ、一定規模の企業には、医者の常駐が義務づけられた。禁煙運動や、メタボリック対策、有害食品の制限などもすでに始められていた。
 労働者は、休日には観劇や乗馬などを楽しむことができた。また毎月わずかな積み立てをしていれば、バカンスには豪準客船で海外旅行をすることもできた。思想的な是非はともかく、経済政策面だけに焦点をあてた場合、ヒトラーは類まれなる手腕の持ち主ということになるだろう。
 ドイツ国民も、ヒトラーやナチス・ドイツに対して決して悪い印象を持ってはいなかった。1951年に西ドイツで行なわれた世論調査では、半数以上の人が1933年から1939年までがもっともいい時代だったと答えている。
 1933年から1939年というのは、ヒトラーが政権を取って戦争を始める前までの期間である。つまり、戦争を起こさなければ、ナチス・ドイツは国民にとってもっともいい国だったということである。

 詳しくは本書を是非読んで欲しいが、高い累進課税はもちろん、土地を担保に紙幣を発行(レンテンマルク)したり、企業の労働力を担保に政府保証付の手形(国債)を発行、政府が仕事を発注するなどした。大恐慌では貿易を物々交換で行うなど、ありとあらゆる手を使って国民を豊かにし、第一次大戦時の賠償金も支払った(この賠償金は21世紀まで支払が続いて最近終わったばかりだという)。
 
 労働力を担保に国債を発行するというのは丹羽春喜教授らが主張するデフレギャップを担保に政府紙幣を発行するのと同じだ。
 
 これらの政策を実施するとした計画書を見て、イギリス政府が横やりを入れようとケインズに批判を求めたところ、この政策だったらイギリスでも大成功間違いないと逆に称賛したという。
 
 これからすると、いまの日本の財政当局というのは何をやっておるのだ、というくらいだらしがないと分かる。政治も本来は財政当局を使いこなすのが役割であって、財政当局の言いなりになっている今の政治家には存在意義はない。シャハト博士の「技」の前では日本政府など中学生みたいなものだ。
 
 労働者には長期休暇とリゾートや海外旅行が必要として取り入れられた制度もあり、豪華客船を政府が建造し、多くの国民に極めて安い費用で海外旅行を体験させている。同種の実例が多数紹介されているのも大変面白く、現代でも十分参考になる。いや現代の貧困な政府の政策よりもはるかに進んでいて、いまこそ取り入れるべき需要喚起策がズラリと並んでいる。

 蛇足だが、同書はナチスドイツの経済政策に焦点を当てたもので、戦争や人種差別問題にはあまり触れていない。それさえやらなければ…という思いはにじませるが、その部分はまた別の話として続編が読みたいものだ。



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Posted by 渡久地明 at 21:34│Comments(0)デフレ脱却
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