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2008年04月30日

カネを刷れという教科書の忠告

神州の泉で快調に続いている小野盛司氏の論説の整理。全部読むべきだ。

カネを刷れという主張が中心になっているが、これは世界中の経済学者が日本に忠告しているデフレ脱却策でもある。

ちなみに世界中で最もよく読まれている経済学の教科書の一つ、スティグリッツ「入門経済学」(第3版)(2005年4月第一刷、東洋経済新報社、藪下史郎他訳)のコラムに、日本のデフレ脱却のための戦略として次の記述がある。

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 別の戦略として、財政赤字の一部を、紙幣を印刷して調達することがある。もちろん、過剰な紙幣の印刷が急激なインフレーションをもたらす恐れはある。しかし、それは、紙幣の印刷が物価に上昇圧力を加えるということを強調した言い方にすぎない。したがって、適切な額の紙幣を印刷すれば、財政赤字の資金調達をするための借入れによって政府が負う負担(日本の国債残高の対GDP比は140%を超えており、先進工業諸国ではもっとも高い国の一つとなっている。そのため、この負担はますます大きな問題となっている)が軽減されるだけでなく、デフレーションから緩やかなインフレーションへの逆転をも可能にするのである。これは実質利子率を低下させ、投資を刺激し、経済にさらなる刺激を与えるであろう。

(スティグリッツ「入門経済学」第3版、480‐481ページ)(続きを読むにコラム全体を引用)

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 もっとも、スティグリッツは日本経済が2003年から回復に向かったとして、上に続けて
 
「このような戦略が試される機会が生じる前に、日本の景気回復が始まった。」
 
 といっている。2008年の現状をみれば、日本の景気回復はまだまだ著にもついておらず、カネを刷れという政策はまだまだ撤回すべきでないだろう。この判断はフライングだと思う。財政再建のためにこの状況で消費税を上げなければならないというおバカな政治家がいる間は、景気回復に向かったという判断はできない。なお、スティグリッツは財務省の講演でも同じ主張を行っている。

http://www.mof.go.jp/singikai/kanzegaita/giziroku/gaic150416.htm

 を参照。

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小野盛司氏の明快な積極財政論(1〜15)
http://toguchiakira.ti-da.net/e1953002.html

道路建設費60兆円はさっさと使え(16〜29)
http://toguchiakira.ti-da.net/e1988153.html

シミュレーションで決着はついている(30〜51)
http://toguchiakira.ti-da.net/e2046467.html

52.国民はいつまで騙され続けているのか−内閣府が乗数表を公表−
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_e523.html

53.内閣府の経済モデルは過去の日本経済を説明できるのか
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_10bd.html

54.デフレ下で消費税増税をさせてはいけない
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_5a70.html

55.労働はロボットに、人間は貴族に
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_129b.html

56.内閣府の試算と日本経済復活の条件
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_bf88.html

57.宍戸vs大田大臣の公開討論会はどうなったのか
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_081d.html

58.IMF委 共同声明 景気刺激へ財政政策を
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/imf_d4bb.html

59.生産性向上が国を豊かにする。国がお金を使わないと生産性は向上しない
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_80ea.html

60. 未来の医療はどうあるべきか
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_ff0e.html

61.マスコミは誤った世論誘導をやめよ
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_bc55.html

62.経済を良く理解している国会議員に期待しよう
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_7d85.html

63.無益な経済論争をいつまで続けるのか
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_518a.html

64.国益を考えてみよう
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_b555.html

65.山口補選で国民の審判は下った。政府は国民の声を真摯に受け止めよ
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/04/post_5dfc.html

66.ガソリン暫定税率と高齢者医療で明らかになった民意
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/05/post_2444.html

67.一流でなくなった経済を一流に戻すには何をすべきか
一流でなくなった経済を一流に戻すには何をすべきか

68.報道2001での与謝野馨氏の発言について
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/05/post_4c82.html

69.消費を伸ばすには1500兆円の個人金融資産を「活用」すればよいのか
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/05/post_84e4.html

70.暮らしに対する不安感が高まっている—内閣府調査—
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2008/05/post_82e0.html

インフレターゲティングと金融政策の運営

 中央銀行の人たちは彼らを導いてくれる単純なルールが好きである。彼らは、ある期間、マネーサプライを一定率で増加させるというルールに魅了されていた。利子率はなるようにしておけばよい。もしマネーサプライの成長率が適切に選ばれれば、物価水準の安定が保証されるとの希望が持たれていた。この種の政策はマネタリズムと呼ばれる。しかしその政策はうまく物価を安定させることができず、利子率の激しい変動をもたらした。今日では、多くの中央銀行がインフレターゲティングに従っている。中央銀行は目標となる特定のインフレ率を設定し、インフレ率がその目標を上回ることが観察(あるいは予想)されたならば、利子率を引き上げる。インフレ率の上昇よりも大きく利子率を引き上げるので、実質利子率は上昇する。実質利子率の上昇は総需要を減少させ、インフレ圧力を低下させる。
 しかしながら、もっとも難しい間題は適切なインフレ目標を発見することである。インフレーションと失業の間に短期のトレードオフが存在するのであれば、少なくとも短期においては、インフレ目標を低く設定すると失業が増加することになる。NAIRUを「目標」にすることを試みている金融政策当局も存在する。すなわち、経済がNAIRU未満の失業率であると考えたときには、インフレが高まりつつあるので、金融政策を引き締めるのである。この場合、NAIRUがいくらであるのかが問題となる。ここまでみてきたように、NAIRUは時間を通じて大きく変化する。1990年代初め、IMFと連邦準備制度(Fed)はアメリカのNAIRUは6%から6.2%の間であると考えていたが、クリントン政権の中にはもっと低い値であると考える人もいた。彼らは、アメリカ経済の構造変化一海外からの競争の増加、労働組合の弱体化、より高い教育を受けた労働力がより容易に転職できるようになったこと、労働市場への新規参入者が減少したこと、そして生産性上昇率の上昇一により、経済がインフレーションを上昇させることなくより低い失業率で生産を行うことが可能になったと考えていたのである。そして、この見解が正しいことが証明された。失業率は、インフレ率の上昇なしに4%以下まで徐々に低下したのである。
 日本においてもまた、インフレターゲティングを提唱する人が存在する。しかし、その理由は逆のものである。すなわち、日本ではデフレーションを終わらせるための戦略の一部として提唱されているのである。インフレ率がたとえば1%未満である限り、インフレ率を上昇させるために金融政策を使い続けることを政府が公表し、信認を得ることができれば、期待を緩やかなデフレーションから緩やかなインフレーションへと変化させることが可能となる。問題は、中央銀行はどのようにしてそれを信用させるかである。中央銀行は銀行システムの流動性を増加させ、銀行が貸出しを行いやすくすることはできる。しかし、それでも銀行が貸出しをしない、あるいは利子率が低下しても企業が投資を行うことを決定しないならば、総需要は増加せず、デフレーションからは回復しない。金融政策によって総需要を増加させることはできないという悲観論があまりにも強いため、インフレターゲットの公表自体が期待を変えるというのはありえないように思われる。
 別の戦略として、財政赤字の一部を、紙幣を印刷して調達することがある。もちろん、過剰な紙幣の印刷が急激なインフレーションをもたらす恐れはある。しかし、それは、紙幣の印刷が物価に上昇圧力を加えるということを強調した言い方にすぎない。したがって、適切な額の紙幣を印刷すれば、財政赤字の資金調達をするための借入れによって政府が負う負担(日本の国債残高の対GDP比は140%を超えており、先進工業諸国ではもっとも高い国の一つとなっている。そのため、この負担はますます大きな問題となっている)が軽減されるだけでなく、デフレーションから緩やかなインフレーションへの逆転をも可能にするのである。これは実質利子率を低下させ、投資を刺激し、経済にさらなる刺激を与えるであろう。
 このような戦略が試される機会が生じる前に、日本の景気回復が始まった。
 
スティグリッツ「入門経済学」第3版、480‐481ページ


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Posted by 渡久地明 at 23:50│Comments(0)デフレ脱却
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